3日目 第1話 朝の秘密の検索
夜明け前の女子寮の部屋は、まだ静寂に包まれていた。窓の外は薄暗く、遠くの空が少しずつ白んでいく。
花音は、ぼんやりとしたまま布団の中で目を開けた。昨夜は慣れないルームウェアで少しそわそわしていたが、寝心地は悪くなかった。それどころか、綾香の服を借りているという意識がずっと残っていて、心のどこかで落ち着かない気分だった。
――綾香先輩の服、すごく柔らかくて、いい匂いがする……。
ぼんやりとした頭でそんなことを思いながら、花音はそっと布団の中で身体をさすった。昨夜から着ているのは、淡いブルーのリラックス感のあるTシャツと膝上丈のショートパンツ。ジャージに比べて布の面積が少なく、肌に触れる感覚が軽やかだった。そのせいか、ふとした瞬間に妙な落ち着かなさが込み上げる。
「ん……」
無意識に、太ももに手が触れた。自分の肌に直接触れるのが、いつもより敏感に感じられる。女子の部屋で、女子の服を着て眠る――。それを意識すると、少し胸がざわついた。
隣では綾香がまだ寝息を立てている。すぐそばに綾香がいるという状況が、何となくくすぐったい気持ちにさせる。
(……変なこと考えてないで、起きるか)
花音はゆっくりと布団の中で手を伸ばし、枕元に置いていたスマホを手に取った。まだ時間は早い。時計を見ると、朝の5時半を少し回ったところだった。
(今のうちに、ちょっと調べ物でもしようかな)
布団の中でスマホの画面を開き、指を滑らせる。昨日の夜、思わぬ形で体操を提案され、レオタードの話題が出た。その時は冗談交じりのやり取りだったが、いざ実際に着ることになったらどうすればいいのか、不安だった。
(レオタードの着方……着る順番とか、下に何を着るのかとか)
検索窓に「レオタード 着方」と打ち込むと、すぐにいくつかのサイトが表示された。
(へえ……普通は下着を着けずに直接着るんだ……でも、競技用のインナーとかタイツを履く場合もあるのか)
いくつかの画像を見ながら、花音は「やっぱり女子の服っていろいろ大変なんだな」と思った。レオタードだけでなく、スカートやワンピースの時の下着の工夫、透け防止のインナーなど、知らなかったことが次々に出てくる。
そして、次に気になったのは――「女装時の股間の隠し方」
(このままじゃ、ぴったりした服を着た時に違和感が出るよな……)
そう思いながら、少しためらいながらも検索してみる。「女装 股間 隠し方」と入力すると、意外にも具体的な方法がいくつか出てきた。
(え、テーピング? 下着の工夫で目立たなくする方法もあるのか……)
サイトの説明によると、体操選手やバレエダンサーも似たような方法を使うことがあるらしい。ふと、昨日の夜、華子がふざけてレオタードを勧めてきた時のことを思い出した。
(……もし、本当に着ることになったら、どうすればいいんだろう?)
考えれば考えるほど、自分がどこへ向かっているのか分からなくなりそうだった。でも、交換体験を続ける以上、こういうことも避けて通れない。
「……はぁ」
小さく息を吐いて、スマホの画面を閉じた。その時、隣で綾香が寝返りを打つ気配がした。
「ん……花音……?」
「っ……!」
一瞬ドキッとして、慌ててスマホを伏せる。
綾香はまだ寝ぼけているようで、ぼんやりと目を開けていた。柔らかな寝顔に、少し乱れた髪。普段はしっかり者の綾香が、こんな風に無防備な姿を見せるのは珍しい。
「どうしたの……? もう起きてるの……?」
「う、うん。ちょっと目が覚めちゃって……」
焦りを隠すように笑うと、綾香は「ふぅん……」と小さく返事をして、また目を閉じた。
花音は、しばらく綾香の寝顔を見つめていた。
(綾香先輩って、ほんとに綺麗な人だよな……)
胸の奥に小さなざわめきを感じながら、花音は再び布団の中に潜り込んだ。朝の静けさの中で、ひんやりとしたシーツの感触が、妙に心地よかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます