君の隣で、僕が咲く
音羽さら
前日 僕の混乱
1学期が終わり、久しぶりに家に帰った僕は、リビングでホッと息をついていた。寮の生活は思ったより大変で、気を張りっぱなしだったから、こうして家でゆっくりできるのはありがたい。
「拓海、ご飯できたわよ」
母さんの声に促され、ダイニングテーブルに向かう。食卓には僕の好きな唐揚げが並んでいた。
「久しぶりにちゃんとした飯だ」
「それ、寮母さんに聞かれたら怒られるわよ?」
母さんはくすっと笑いながら、僕の茶碗にご飯をよそってくれる。
しばらくは他愛のない話をしていたけど、母さんが急に切り出した。
「そういえば、寮の1週間行事のこと、聞いてる?」
「え、なにそれ?」
僕は箸を止めて母を見た。
「1週間、特別な体験学習があるの。」
「体験学習? 何やるの?」
嫌な予感がして眉をひそめる。
「まあ、ちょっと変わったことよ。」
母は意味深に笑うだけで、具体的なことは言わない。
「なんだよ、それ。ちゃんと教えてよ。」
僕が突っ込むと、母は少し間を置いてから言った。
「男女の寮で交換体験をするのよ。男子は女子寮、女子は男子寮に行って、それぞれの生活を体験するの。」
僕は一瞬、何を言われたのかわからなかった。箸を置き、母さんをじっと見つめる。
「……え? 女子寮で生活ってどういうこと?」
「そのままよ。男子が女子寮で、女子が男子寮で過ごすの。もちろん服装も、身だしなみも、全部相手に合わせるのよ」
母さんはあっさりと言うけど、僕には到底受け入れられる話じゃない。
「ちょ、ちょっと待って。服装もって……まさか、女子の制服とか着るってこと?」
「そうよ。だって、女子寮で過ごすんだから当たり前でしょ?」
当たり前って言うけど、僕にとっては寝耳に水だ。頭がぐるぐるしてきた。
「無理だよ! そんなの絶対無理!」
「大丈夫よ。3年生の先輩が1人ついてくれるから、困ることはないわよ」
「いや、そういう問題じゃなくて! なんでそんな行事があるんだよ!」
僕が声を荒げると、母さんは苦笑しながらお茶をすすった。
「まあ、伝統だからね。それに、私もやったのよ。男子寮で1週間過ごしたの」
「……え? 母さんが?」
「そう。私も最初は嫌だったけど、やってみたら意外と楽しかったわよ。千春さん、知ってるでしょ? 女子寮の寮母さん。彼女と一緒に参加したのよ」
母さんがこんな話をするなんて信じられない。僕は頭を抱えた。
「……無理だって。僕には絶対無理だ」
「そんなこと言っても、やるしかないのよ。まあ、練習くらいはしておいたら?」
母さんはニヤニヤしながら言う。
「ちょっと待って。練習って、何を?」
「制服の着方とか、スカートの扱い方とか? あ、歩き方も大事よね」
「やめてくれ! そういう冗談!」
僕が顔を真っ赤にして叫ぶと、母さんは肩をすくめた。
「冗談じゃないのよ、これが。まあ、やってみたら案外楽しいかもしれないわよ?」
「絶対に無理だって……」
「……本当にやらなきゃダメなの?」
「うん、逃げられないわね。」
母は悪びれる様子もなく、にっこり笑った。
僕は頭を抱えた。覚悟なんて、できるわけがない。
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