第3話
5歳の時から僕は周りからおかしな目で見られるようになった
その理由はひとつ・・・突然独り言を言うようになったからだ
でも仕方ないじゃないか
僕の頭の中に語りかけて来るヤツがいるのだから
石を飲み込んでから5年後──────
《ようやくまともに話せるようになったわね。これまでどれほど苦労したことやら》
「5歳児に理解しろって方が無理でしょ?『アナタはダンジョンになりました』なんて言われて理解出来ると思う?」
夜になると話しかけて来る石
最初は人目もはばからずその声に応えていたけど、しばらくしてこの声が僕にしか聞こえない事に気付いた
でも気付いた時にはすでに遅く、周りからは『変な子』と思われ父ちゃんと母ちゃんはおかしくなったと心配された
今は自分の部屋にいる時だけ応えるようにしてるし、石──────ダンコも気を使ってかなるべく人気のない場所でしか話しかけなくなった
《ええそうでしょうね。アナタが理解出来ないように私も理解出来ないわ・・・普通飲む?道端に転がってるものを》
「あれは・・・咄嗟にって言うかなんと言うか・・・」
あの時は差し出された手を早く握らないとって気持ちと手に持ってる石がバレたら怒られるって気持ちが頭を混乱させて・・・だと思う・・・多分
《まあ過去の事はいいわ。今はこれからの事よ。ダンジョンの事は理解したでしょ?》
「そりゃあ毎晩繰り返し繰り返し言われ続ければ覚えもするよ」
《じゃあ分かるわね?アナタがすべき事》
「ペギーちゃんに告白する」
《・・・》
「じょ、冗談だよ・・・怒らないでよ怖いなぁ。あの広場にダンジョンを作る、だろ?」
ダンコがあの広場に居た目的はダンジョンを作る為なのだそうだ
ダンジョン──────魔物が蠢く迷宮。その中には金銀財宝や見た事もない強力な魔物が詰まっている。冒険者はダンジョンに潜り一攫千金を狙ったり強い魔物を倒して名声を得る
つまりロマンがそこにはあるのだ
《そうよ。それにはマナが大量に必要・・・だからアナタはマナを使わずに溜めているの》
「溜めさせている、だろ?10歳にして魔法が使えないのなんて僕だけだよ・・・」
《あら?他にもいるじゃない》
「・・・言い直す。魔法や魔技が使えないのなんて僕だけだ。溜め込んだマナを使えないせいでね!」
普通は大気中にあるマナを体内に溜め、そのマナを使って魔法や魔技を繰り出す
5歳から通い始めた村の有志が僕のような子供を教えてくれる学校でその辺を教えてくれるんだけど僕はその中で落ちこぼれとなってしまった
もちろん全ての人がマナを上手に使える訳じゃないから、そういう子は早々に諦めてマナを使わない職種を目指すのが普通だ
僕は諦め切れずにマナを使う職種・・・主に冒険者になる為の授業を受けている。だってそこには・・・ペギーちゃんがいるから!
《・・・しょうもない事を考えてそうね。まあいいわ・・・それよりもいい?魔法や魔技なんていつでも使えるようになれる。でも今はマナを溜める事に専念して。じゃないといつまで経ってもダンジョンは生成出来ないわ》
「分かってるよ。今の僕でも3階位のダンジョンしか作れないんだろ?しかも魔物抜きの」
ダンジョンに付き物なのが魔物
その魔物はダンジョンが創り出しているらしいのだけど魔物を創るにもマナが必要だ
階層は少なくてもいいから先ずはダンジョンと魔物を数揃えないとダメダンジョン認定されて人が集まらないらしい
《出来れば10階のボスがドラゴンなダンジョンがいいのだけど・・・まあそれだと50年はかかりそうだから初めは3階で我慢しとくわ。魔物はそうね・・・各階に100体は必要ね。それとボス部屋には出来るだけ強い魔物が・・・》
「・・・それで何年くらい?」
《・・・ざっと5年後ってとこかしら。ダンジョンが出来てしまえばマナは自然と集まって来るから後5年の辛抱よ》
つまりそれまでマナは使えないって訳か・・・ううっ
《何泣きそうになってるのよ?》
「だってみんなはババっと魔法使ったりジャキンって魔技使ったりしてるのに僕だけ使えないんだよ?そりゃあ泣きたくもなるさ」
《今使えたからって何だって言うの?どうせそいつらなんてダンジョンに潜れば私達の糧になるだけよ!そうすればロウだってあっという間にそいつらより強くなっちゃうんだから!》
「へぇー」
《・・・信じてないわね?今に見てなさい・・・私と融合した事を泣いて感謝する事になるわ》
今泣きそうなんだけど・・・5年ってもう学校卒業してる頃だよね?つまり今の状態が後5年続いて・・・そうなると就職先もたかが知れてるし・・・ハア・・・
15歳になると学校を出て職に就くのが普通だ
このままだと僕は冒険者になれば誰にもパーティーに入れてもらえないソロ冒険者か見回りが主な仕事の巡回兵士になるしかないだろうな
「・・・未来は暗い・・・」
《10歳児が何を言ってんだか・・・それにアナタの未来は明るいわ。キチンとダンジョン経営が出来ればね》
「結局はそれまで我慢なんでしょ?」
《そうなるわね。さっ、明るい未来の為に勉強するわよ!今日は下級に分類される魔物のナ行からね》
また始まる
魔物の特徴や見た目を永遠と繰り返される悪夢の時間が・・・
10歳の僕は夜はダンコのダンジョン講義、日中は戦闘職に就く為の授業を受けていた
寝る間もなくそんな日が続けばどうなるか・・・日に日に目の下のクマは濃くなり表情は暗くどんよりとしがちになる。体力は衰え授業を受ければ受けるほど弱くなるという稀有な存在になってしまった
10代の女の子がそんな不健康児に惚れる訳もなく、授業にてメキメキと頭角を現して来たある男子に注目が集まっていた
村長の息子ダン
マナで物を硬くする技を筆頭に様々な魔技を使いこなす彼はたちまち村の天才少年ともてはやされる
女子がダンを見る目はハートとなり、その中には愛しのペギーちゃんの姿も・・・
対照的に僕は汚物でも見るような目で女子から見られ毛嫌いされていた
アイツに近付くとロウ菌が伝染るぞ・・・なんて言われ『根暗』『不潔』『死神』なんて不名誉な称号も得た
それでも容赦なくダンコの講義は続く
そんな日がそれから5年・・・5年も続いたんだ・・・
5年後──────
「げっ!アニキ・・・母さん!アニキが出たよ!」
いつの間にか我が家には妹なるものが産まれていた
5歳下の妹は本来兄を慕い可愛らしくあるはずなのだがクラスの女子と同じような目で僕を見る
8歳くらいから明らかに避けられ、家の中で遭遇すると『出た』と言われるようになった
父ちゃんと母ちゃんも妹だけを可愛がり、会話も数年していないような気がする
まるで家族に拒絶されているかのような毎日
ダンコがいなかったら発狂していたかもしれない・・・まあダンコがいたからこうなっている訳だが・・・
そんな日々を耐え続け僕はようやく15歳となった
誰も祝ってくれない誕生日・・・そんな日の夜にふらりと外に出る
向かった先はダンコと出会った村の広場
学校に通い始めてからは来ることがなくなった広場だったけど10年前とほとんど変わらない
「・・・暗いな・・・」
《そうね・・・でもアナタの未来は明るいわ・・・今日この日から・・・アナタはダンジョンマスターとなるの》
ダンジョンマスター・・・か
初めは飴玉みたいに小さかったダンコ。他のダンジョンのダンジョンコアも初めは小さいらしい
だけどダンジョンの成長と共に大きくなり力を得る
普通はダンジョンの最下層に存在し誰かの手によって壊されない限りは永遠にダンジョンを作り続ける。それがダンジョンコアだ
でもダンコは僕が飲み込んでしまった為に普通のダンジョンコアではなくなってしまった
どういう訳か僕の胃の中に入ったダンコは僕と融合してしまう。そして僕は・・・恐らく史上初のダンジョンコア人間となってしまったのだ
ダンコはそれをダンジョンマスターと呼ぶようにしたみたいだけどまだ実感は湧かない
ただこれまで散々苦労して来たんだ・・・報われるか分からないけどやるだけの事はやってみよう
人生を・・・取り戻すんだ
「ダンコ・・・どうすればいい?」
《広場の中央に立って思い描くの。これまで得た知識を総動員して思いのままのダンジョンを。初めは入口を作らないで・・・何度もテストを重ねて公開出来るようになったら・・・この村はダンジョンのある村となり巨万の富を得る事になる・・・そして数年後にはダンジョン都市に生まれ変わるの》
「その時僕は・・・」
《全ての人間を超越する・・・創造主となる》
創造主・・・大袈裟に聞こえるがことダンジョン内だけで言えばそうなのだろう
何せ僕が全てを創り出すのだから・・・
人気のない広場の中心に立つ
長い年月をかけて練りに練った迷宮内部を思い浮かべると自然と体が動き地面に触れる
すると触れた地面が光り輝き思い描いた映像が頭の中から飛び出して行き映像として流れ込んでくる
「うっ!」
頭が割れるかと思うくらいの激痛
それに身体中が軋む
《まだよ!もっと強くイメージして!アナタの・・・ダンジョンを!》
僕の・・・ダンジョン・・・
僕の・・・
・・・
《ロ・・・ロウ・・・ロウ!!》
「・・・んなっ!?」
ダンコに起こされて目を開けるとそこは石の壁に囲まれた部屋だった
まさか・・・失敗した?
《初めてにしては凄いじゃない!上出来よ》
「どこが・・・僕はもっとダンジョンっぽいものを創造したと思ったのに・・・」
《ふふ・・・アナタの記憶にこの場所はない?ほら・・・2人で考えていた時に・・・》
え?・・・こんな場所作ろうとしてたな?・・・・・・あっ!
「司令室!」
《そう!まだ何もないけどここはアナタと私の司令室。ここから魔物に指示出したり冒険者を観察したり出来るの。さあ、創造してみなさい・・・ダンジョンの内部を見る事が出来るアイテムを》
ダンジョンの内部を見る事が出来るアイテム・・・そうだ・・・さっきはそこまで頭が回らなかったけど考えてたんだ・・・内部を隅々まで映し出せるアイテム・・・
「・・・わっ!・・・出た・・・水晶・・・」
想像したら目の前に水晶が創造された
僕の頭くらい大きい水晶。中を覗き込もうとするとダンコが興奮気味に囁く
《素晴らしいわ・・・この水晶を使って見てみましょう・・・アナタが作ったダンジョンを。これから始まるのよ・・・アナタと私のダンジョン経営が》
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