ダンジョン都市へようこそ

しう

第1話

それは僕が5歳の誕生日を迎えた時だった


いつもなら日が暮れて食事を済ませ、風呂に入るとベッドに直行するのだが誕生日という事もあり夜の村に繰り出す事を許された


当然両親同伴だが


それでもとてもはしゃいでたと記憶している


煌々と燃える松明が照らし出すのは昼間の僕達のように大声で笑い騒ぎ立てる大人達・・・その時は知らなかったが酒の力を借りて子供の時に戻っているのだろう。随分と楽しそうに見えた


色々と気になるものがあったが父ちゃんの手はしっかりと僕の手を握っており遠くから見ることは出来ても近付く事も触る事も出来ない


それがもどかしくなり必死に手を抜こうとしていると父ちゃんが何かに気を取られたのか手がスルリと抜けた



これで僕は自由だ



夜起きていられるという事実が僕のテンションを上げ、昼間とは様相の違う村が僕の行動を狂わせた


とりあえず両親から離れなければと考えた僕はひたすら歩く


と言ってもまだ5歳の子供の歩幅などたかが知れている。2人がすぐにでも振り向けば僕は見つかってしまっただろう


しかし2人は何かに夢中になり僕の存在など忘れてしまったかのように振り返ることなくその何かを見ていた


自由を得た5歳の僕が辿り着いたのは村の中にある広場だ


よく母ちゃんが日中連れて来てくれる場所


特に何も無い広場なのだが思いっきり走るには十分なスペースがある


そう・・・特に舗装されている訳でもなくて遊具がある訳でもない


昼間は子供を誘惑するいい匂いの露店や母親達が子供達を見る時に座るベンチがあるだけ


しかし夜になると露店はなくなりベンチには誰も座っていない


当たり前だが子供なんている訳が無い


昼間とはあまりにも違うひっそりとした広場に恐れをなして立ち尽くしていると声が聞こえてくる



《ココに決めた》



誰かいるのかと思いキョロキョロするが見当たらない


今の僕なら怖くなって逃げていたかもしれないが当時の僕は恐怖より興味が勝った


声がした方に向かって歩き見たものは──────玉


5歳の僕の手よりも小さいその玉はそこら辺に転がる石とは違いまん丸で模様が描かれていた


「・・・キレイ・・・」


つい言葉に出してしまうとその玉は光り輝き始める


《な、なに?え?子供??》


「子供じゃない!ロウだ!」


子供扱いされるのが嫌な年頃だった。即座に否定して名前を名乗ってしまう辺りまんま子供


《ロウ?いい子ね。お家にお帰り》


「お前なんだ?なんで石が喋るんだ?」


《石・・・ちょっとそれは酷いんじゃない?私はこう見えても・・・》


「こう見えても?」


《・・・なんでもないわ。早くどこかに行ってちょうだい》


「イヤだ!」


《聞き分けのない子ね。そのままだと巻き込まれて死ぬわよ?》


「死ぬ?どうして?」


《ココにダンジョンが生まれるの。その際にこの広場は姿を変え・・・》


「え?広場なくなっちゃうの?ヤダよ」


《ココに住んでる人達は喜ぶわ。何せダンジョンが出来れば・・・》


「ヤダ」


《・・・人の話を聞けって教わらなかった?》


「石じゃん」


《・・・》


そんな会話を繰り広げていると遠くの方から僕の名を呼ぶ声がする


どうやら僕がいない事に気付き父ちゃんと母ちゃんが僕を探しに来たみたいだ


《ちょ、ちょっと!》


僕は何を思ったか咄嗟に広場の真ん中に置かれている石を拾い上げた。動揺する石・・・何故か見つかってはマズイと思い石を握って隠した


父ちゃんと母ちゃんは広場で佇む僕を発見し慌ててこちらに駆け寄って来る


心配していたのだろう・・・汗なのか涙なのか分からないがとにかく顔がぐちゃぐちゃだった


抱きつかれて何度も俺の名を呼ぶ母ちゃん


父ちゃんは何もいい事した訳でもないのに僕の頭を撫でてくれた


そして、帰ろうと父ちゃんが言うと手が差し出される。当然この手は繋ぐ為に出された手だ


しかも父ちゃんと母ちゃん2人から差し出されている


2人と手を繋ぐのは嬉しい事なのだが5歳の僕は困ってしまった


何故なら手にはあの石が握られていたから


どうしようかと悩んだ挙句、僕が出した答えは──────手に握られた石を口に含む事だった


「あら?ロウちゃん今・・・何か口に入れた?」


鋭い


僕の僅かな動きを見逃さなかった母ちゃん


焦った僕はバレたら取られると思い──────飲み込んでしまった。あの喋る石を


「べ、別に」


「そう・・・拾ったものは食べちゃダメよ?腐ってたらお腹痛い痛いになるからね?」


石だから腐る事はないだろうが5歳の僕は母ちゃんの言葉を聞いて真剣に悩んだ


腐ってたらどうしよう、と


差し出されたふたつの手を取り、家路に着く間考えていたのはそんな事だったと覚えている


だが実際は腐ってはなかったがそれ以上にとんでもない出来事に巻き込まれてしまう事になる




何せ僕は・・・ダンジョンになってしまったのだから──────




5歳の時から15年後


20歳になった僕は村・・・いや街のしがない門番をしていた


ひっきりなしに来る人達


行商人や観光客・・・でもその中で一番多いのはやっぱり・・・



「ここがダンジョン都市エモーンズか・・・腕が鳴るぜ」


「ここのダンジョンは成長が早いらしいわ。調子に乗って奥に行き過ぎると急に魔物が強くなる事もあるらしいし・・・」


「そんなの百も承知!いざ行かん!憧れのダンジョンへ!」


「その前に街に入らないと・・・門番さんこれギルドカードね」


男女の冒険者・・・幼馴染ってところか


僕は2枚のギルドカードを受け取ると目を通し不備がないか確認する


そして確認し問題がないと分かればいつものセリフを・・・



「確認出来ました。ダンジョン都市エモーンズへようこそ」

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