第24話 くじに拒否られている
「高等科の三学年は、それまでに中等科の三学年の実地訓練に付き合うことだ」
そう言えば、中等科のときに高等科の人が付き添って訓練するっていうのがあったけど、私はそういうのなかったよね。たぶん鬼頭がいたからだと思う。
というか私は年に二回ある、地獄の釜が開く日には、里の結界の維持をするために待機している。だから皆の大変さはわからない。
「今は半分ほどいないからな。二人ぐらい担当しておけ。帰ってきた奴がいれば、そいつにも担当させるからな」
何か適当なことを先生が言いだした。
「ということで、この箱から二枚紙を引け、明日と明後日の担当するやつだ」
「先生適当すぎる」
「相性っていうのがあるだろう?」
「誰でもいいですわ」
他の人も先生の適当具合に呆れている。
何事にも相性というものはある。相性が悪いと本当に悪い。
「うるさいぞ。相性が悪くても組まなくてはならねぇときもあるだろう。いいから、前から順番に引きに来い」
ってことは、私か桔梗が一番最後ということだ。まぁ、いいか。お饅頭が美味しいし。
「白石? って誰だ?」
「大伴朝霞かぁ」
「左近昂弥って、あの問題児じゃない」
これって結局教師の手が足りないから、卒業間近の高等科の三学年に教育をさせようというだけのこと。
さて
「桔梗。先に⋯⋯ひいへきへひひお」
「お饅頭を食べながら言わないでください。私は残り物でよろしいですわ」
物って⋯⋯それじゃ、先に引きにいきますか。
お饅頭を頬張りながら、前に行く。
置いてある、くじを引くように穴が大きく開いた箱に手を入れた。そして残り半分ほどになっただろう紙を探す。
⋯⋯探す。
「先生⋯⋯ないですけど?」
「あ? そんなはず無いだろう。まだ一枚ずつしか引いてないだろうが」
おかしい。私は名前が書かれている紙が入っているという箱を視る。
箱の内側の壁面に紙が張り付いているように見える。箱から手を抜く。壁面に張り付いている紙が底に落ちる。
手を入れる。紙が壁面に張り付く。
⋯⋯私の手から何か怪しい磁気でも出ているのか!
いや、この箱に何か術が仕掛けられている。
「先生。紙に拒否されてとれません」
「はぁ。やっぱりそうか。三年前もそうだったらしいからな」
私が中等科のときの話か。だから、私は上級生がつかなかったのか。
別に問題なかったけど。
するとクスクスと笑い声が背後から聞こえてきた。
「紙にまで怖がられるって⋯⋯こわーい」
いや、怖がられているんじゃなくて、これはあてがわれた場所に合った組み合わせになるように術で仕組まれている。自分で選んだように見せかけて、これは始めから決められたものだった。
でも、これを言うと駄目なような気がするので、石蕗さんの言葉は無視する。
しかし、そんなこと言わなくてもいいと思うのだけど。
はっ! まさか自分だけ引けなかったから拗ねている?でも、式神を得ていないと色々不便だから、先に式神を得ることを優先した方がいいよ。
「き⋯⋯鬼頭様! 真白ちゃーん!」
十環の言葉に後ろを振り返ると、石蕗さんの背後から鬼頭が刀を振り上げている姿が目に飛び込んできた。
私は思いっ切り地面を蹴る。
「十環!」
ここからじゃ流石に間に合わない。私より近くにいる十環の名を呼ぶ。
「鬼頭様! ごめんなさい!」
十環は木の枝を伸ばして鬼頭の振り下ろしている腕に絡み付ける。しかし、一瞬だけしか動きを止められず、木の枝を引きちぎりながら、刀が振り降ろされる。
一瞬でも動きが止められたのなら、間に合う。
左手に結界をまとわして、鬼頭の刀を受け止める。本気で振るっていないから、受け止められた。
「鬼頭。刀をしまって!」
「気に入らないのなら、さっさとここから去れ!」
「え? なに?」
うわっ! 鬼頭の左手に引っ張られて、刀を止めている結界がズレてしまった。
そのまま鬼頭の刀が振り下ろされてしまったけれど、そこには石蕗さんの姿はなかった。
「鬼頭様。申し訳ございません」
そこには石蕗さんを椅子から引きずり落として、背後にかばうようにしながら、土下座をしている者がいた。
斎木
わかりやすい立場を言うと桔梗の祖父になる人で、確か私の父と同じぐらいだったような?
「九樹。貴様の謝罪などいらん。そもそもソレを生かす意味があるのか?ないだろう」
鬼頭に問いかけられた校長は黒髪が混じった白髪の頭を上げて、まっすぐに鬼頭に視線を向けて答えた。
「はっきり言えば、ありません」
「え?」
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