鬼頭の嫁-生贄としての嫁はある意味最強-

白雲八鈴

第1話 使役される者

「もう! どこに行ったの! 私ばっかり動いていない?」


 私は放課後の校舎の中を探し回っている。

 教室に戻ってみれば、居ないってどういうこと?


 あまり目立つことはするなって、注意されているのだけど、今回はいいよね。


 スカートのポケットから一枚の紙を取り出して、紙飛行機を折る。今回は目的の場所まで行けばいいから、これでいい。


 その紙飛行機に息を吹きかけ、校舎内に長く伸びている廊下に飛ばす。


「『鬼頭の元に案内しなさい』」


 言霊を乗せると、紙飛行機は方向をくるりと変え、窓の外に飛んでいった。


 窓の外ってことは屋外!それは校舎の中をどれだけ探してもいないわけだ。


 私は三階の窓の枠に足をかけて、セミの鳴き声が響き渡る青い空に飛びだしたのだった。


 スタッっと着地後、前方に飛ぶ紙飛行機をすぐさま追いかける。中庭を走っていると夏にも関わらず、緑の葉をつけていない桜の木に紙飛行機が当たって消えた。


 その大木と言っていい枯れた桜の木の裏で話し声が聞こえる。


「鬼頭くん。今から遊びに行かない?」

「えー? 私と行くんだよね?」

「ずるい! 私が先に声をかけたんだよ!」


 大木の裏に、数人の女の子に囲まれた物体を見つけた。老人のような真っ白な髪が目立つ、長身の青年。

 人間味のない端正な顔立ちに、光を反射する金色の瞳が異様に目を引く。


 私は少し離れたところで仁王立ちして、このラブコメのような情景を見ていた。


 私が一人頑張っているときに、女の子にチヤホヤされていたのか!


 私の殺意がこもった視線に気がついたのか、金色の瞳と視線があった。そして先程まで何も表情が浮かんでいなかった端正な顔に笑みが浮かぶ。


真白ましろ。どうした?」


 何がどうしたよ!


「捕らえたよ!」

「そうか」


 一言で済まされてしまった。この三日間の私の頑張りが三文字で終わらされるなんて!


「行くよ!」


 私は校舎の方を親指で指し示して、早く動くように促す。


「ちょっと! 従兄妹かなにか知らないけど! 鬼頭くんは私達と今から遊びに行くのよ!」

「そうよ! 転校してきたばかりなら、この辺りのこと知らないでしょ? だから私達が案内してあげる約束なのよ!」

「関係ない人はどこかに消えて」


 ラブコメするなら、他の奴らとしてほしい。そいつに腕を絡めているけど、正体を知って発狂するのは貴女達の方なのに。

と言いたいけど、そこはぐっと堪えて、私は笑みを浮かべた。



「ごめんなさい。今からとても大事な用事があるの。だから、行かないといけないの」


 私は近づいていき、鬼頭の腕を掴んだところで、その手が叩かれる。


「一人で行けばいいじゃ……きゃ!」


 私の手を叩いた子に向かって手を伸ばす。鬼頭の指先が私の手を叩いた子の目をえぐるように突き出していた。


「駄目だよ」


 鬼頭の手首を掴んで止める。もう少しで関係のない女の子に傷をつけるところだった。


「真白の手を叩いた」

「つ……爪が」


 ああ、見られてしまったか。まぁ、どうせその記憶もなくなるからもういい。


 女の子に向けられた長く鋭い爪を覆うように鬼頭の手を握る。


「行くよ。どうせ私達の存在ごと記憶を消されるんだから」

「だが……」

「あまり勝手なことをすると、私が怒られるんだよ」


 すると鬼頭はしぶしぶという感じで手を下ろした。


「ほら行くよ。早く終わらせて帰ろう」

「わかった」


 そして私は呆然としている彼女たちを視界に捕らえ、一言放つ。


「『眠れ』」


 すると糸が切れた操り人形のように地面に崩れ去る三人の女生徒。

 あとは彼らに任せておけばいい。中庭で倒れていると、少々日焼けしてしまうかもしれないけど、許してね。


 夏の日暮れは遅いため、まだ日は落ちていないが、黄昏時になる前には始末をつけておきたい。

 だから、私は鬼頭に抱えられ、もと来た中庭を駆け抜ける。私が走るより早いからね。


「そこの校舎の屋上に捕らえてある」


 私は北側の校舎を指して言う。すると、鬼頭はその校舎に近づいていき、地面を蹴って壁を駆け上っていった。


 屋上にたどり着けば、そこは異様な空間が広がっていた。薄暗く、屋上全体に黒いモヤが満ちているようだ。


「一応、屋上全体に結界を張っている」


 しめ縄のようなロープをくぐる鬼頭に忠告した。以前、私の結界をぶち壊してくれたことがあったので、色々大変だったからだ。


「わかった」


 そう言いながら鬼頭は私を下ろす。そしてどこからともなく、赤黒い鞘に入った刀を取り出したのだ。


「今回は予想通りの野狐だから、力の手加減をして……っていないし!」


 人が忠告をしているというのに、すでに鬼頭の姿はなかった。すると『ケーン!』という獣の鳴き声が聞こえ、黒いモヤが晴れていく。


 瞬殺だ。


 黒いモヤが晴れていくと姿を顕したのは、赤黒い刀身を鞘に収めている鬼頭の姿であった。それも先ほどとは違い、額からは二本の赤い角が生えている。



 鬼頭。それは鬼のかしらの名を持つ鬼。

 この鬼頭真白の式神しきがみである。


 そして私の言う事を全く聞かない最凶の鬼である。何故なら⋯⋯

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