義海賊シン・バークレーとホムンクルス娘たち
@kotuponn
第1話 地球?!
「リーイエ、状況はどうだ!」
シン・バークレーの怒号が艦内通信に響き渡る。巨大な宇宙戦艦【エリシオン】は、連邦警察達の艦隊との激戦を切り抜けたばかりだった。船体のいたるところに焦げ跡が残り、わずかながら煙が立ち上っている。
「磁気嵐が予想以上に強力です。ナビゲーションシステムが完全に狂っています」
副長リーイエの冷静な声が返るが、その背後では他のホムンクルス娘たちが走り回っていた。
「ッザケンな!連邦警察のクソ野郎共がッ!」
シンは舵を握りしめ、エリシオンを必死に操縦する。だが、目の前に広がる景色は、歪み、崩れ、未知の力に引き裂かれていくようだった。
「艦長!」エマが警告を発する。「ブラックホールに吸い込まれます! 推進力を最大限にしても間に合いません!」
その言葉に、艦内は一瞬凍りついた。だがシンは、そんな空気をものともせずにニヤリと笑った。
「ははっ、地獄行きだと? 悪くねえな!」
そう言いながらシンは制御システムを手動に切り替えると、叫び声とともに舵を切った。「全員、しっかり掴まれ!」
次の瞬間、激しい振動が艦内を襲い、全員が思わず叫び声をあげる。視界が暗転し、身体が引き裂かれるような感覚が襲った。
目が覚めると、エリシオンの艦橋に柔らかな光が差し込んでいた。リーイエがいち早く起き上がり、周囲を確認する。
「・・・信じられません。ここは・・・地球です。正確には地球から500万キロの地点。」
「冗談だろ?」シンが苦々しい顔をしながら立ち上がる。
「シン、ただの地球ではありません。」シグが電子スクリーンを操作しながら言った。「この地球の文明レベルは異常に低い。どうやら我々の知る時代とは違うようです。」
「ふざけんな、過去の地球かよ!」
シン・バークレーは、艦橋のスクリーンに映る地球の姿を無言で見つめていた。その青と緑の球体は、どこか懐かしいようでありながら、異質なものにも見えた。
「俺たちが知る地球は、確か『忘れ去られた地』って呼んでなかったか?」
シンがぼそりと口を開く。
「ええ。その通りです。」リーイエが即答する。「数万年前に核戦争が勃発し、その後の小氷河期で、生態系は壊滅的な被害を受けました。人類は、地球を捨てるほかなかったのです。」
ジラーが腕を組みながら、退屈そうに足を揺らして言う。
「アタシらの時代の地球の人口って、せいぜい二千万人くらいじゃなかったっけ?」
「『忘れ去られた地』や『見捨てた惑星』とも呼ばれているわね。」エマが補足する。「仕方ないわよ、銀河系の中でも辺境中の辺境だもの。」
エルザがニヤリと不敵な笑みを浮かべながら、物騒な発言を始めた。
「じゃあ、地球人共を皆殺しにするのはどう?それか、奴隷化とか。楽しそうじゃない?」
「やめとけ、エルザ。」シンが拳を鳴らしながら口を挟む。「ムカつく奴をぶっ潰すのはいいが、相手がどんな奴らかもわからねえうちから暴れるんじゃねえよ。」
ヤシャスィーンがほんわかした口調で「とりあえず~、リサーチしてみましょうよ~。ね、シグ。お願い~?」
「え~?」スクリーンの端で寝そべっていたシグが、不満げに顔を上げた。「ウチ、眠いんだけど…」
「寝るんじゃねぇ!」シンが呆れて言うと、シグは不承不承立ち上がり、スクリーンに手をかざしてデータを解析し始めた。
その間、ダミルィーが優雅な足取りで艦橋を後にする。
「私は少し休ませてもらいますわ。やっと犬っころ共(連邦警察)を撒いたんですもの。これくらいの贅沢、許されてもいいですわよね?」
ジラーが舌打ちしながら彼女を見送る。
「おい、そんなときにサボりかよ。ったく、しょうがねえな。」
「ま、まあまあ~。」ヤシャスィーンがなだめるように声をかける。「リーイエ、この場所なら安全だと思うんですけど~?どうなの~?」
「ええ、問題ありません。」リーイエが冷静に言い切る。「この星の文明レベルを考えれば、我々の存在に気づくことはまずないでしょう。ただ、用心は必要です。」
シンが再びスクリーンに映る地球を見つめ、腕を組んだ。
「面白くなってきたな。この『忘れ去られた地』がどんな星か、じっくり探ってやるさ。」
エリシオンの艦橋では、シンたちが地球の調査結果を確認していた。数十万体の虫型偵察機が放たれ、瞬く間に地球全域の情報が収集された。民族、言語、生活、文化、政治、軍事力…あらゆるデータがまとめられ、各端末に送られた。
シグが伸びをしながら報告する。
「みんなの端末に送ったわよ~。これで地球人が何考えてるかもバッチリね。」
シンが画面を眺めると、眉をひそめた。
「最強兵器が核爆弾…って、何かの間違いだろ?マジかよ…?」
ジラーは動画データを再生して、大笑いする。
「見て、見て!車が地上を走ってんよ!アタシ初めて見たわ~。道ってやつもあるのね。なんか、めっちゃ遅そうだけどさ。」
「こんな小さな惑星に、150ヶ国以上もあるなんて…驚きだわ。」アイシャが冷静な声で感想を述べる。
リーイエがデータに目を通しながら、静かに指摘した。
「現状を考えると、この惑星は極端に未発達な文明です。ただ、歴史的背景は興味深いわね。分裂と対立が続いた結果、各国の技術進歩も中途半端なまま停滞している。」
「地球ってやっぱダメな星だったんだね~。」ヤシャスィーンがほんわかした口調で付け加えた。
その時、エマが手を挙げ、シグに問いかける。
「シグ、今、宇宙歴は何年なのかしら?」
シグが指を動かしながら即答する。
「SW250380年だね。地球歴で計算すると…西暦2019年ってことになるみたい。」
その言葉を聞いた瞬間、艦橋に静寂が訪れた。2019年。シンたちにとっては信じられないほど古い時代だ。
「ってことは、こいつらまだ宇宙にまともに出てねえのか…」シンが呆れた声を漏らした。
「ええ。その通りです。」リーイエが冷静に応じる。「この文明は宇宙に進出するどころか、未だに地上での対立を繰り返している。技術的にも精神的にも未成熟と言わざるを得ません。」
シンたちは、艦橋で得た地球の情報をもとに議論を続けていたが、その隔絶とした文明の差に改めて呆れを感じていた。
「文明レベル0か。」シンが鼻で笑う。「俺たちレベル2とじゃ、月とすっぽんどころじゃねえな。まあ、逆に言えば、ここじゃ俺たちの力を隠す必要もなさそうだ。」
「ええ、レベル0文明とは、惑星の資源を搾取するだけで、星間航行もおぼつかない未開の状態を指します。」リーイエが淡々と説明する。「一方で、我々レベル2は、恒星系全体のエネルギーを利用し、宇宙規模の技術を実現しています。」
ジラーが拳を握りしめながら笑う。
「それなら、地球人相手に遊んでやるのも悪くないかもね~!」
「けれど、彼らの文化や風習を無視すれば、不要な衝突を招く可能性があります。」エマが冷静に指摘する。
アイシャが短く息を吐き、鋭い目で言った。
「つまり、我々が奴らの生活様式を学ぶ必要がある、と?」
リーイエが頷く。
「その通り。言語、風習、生活様式、政治構造…すべてを把握する必要があります。そして、地球の社会の中で目立たないよう振る舞う技術も。」
「地球人の考え方や文化なんて、興味ないわ~」とエルザが退屈そうに腕を組む。「でも、やるなら効率よく、って感じかしらね。」
その結論を受け、一行は睡眠学習用のカプセルに向かうこととなった。艦内の学習モジュールに、地球のあらゆる知識がプログラムされていく。言語から歴史、日常の振る舞い方まで、膨大なデータが短時間で彼らの脳にインストールされる仕組みだ。
艦内の専用区画に並ぶカプセルを見ながら、シンは不満げな顔をする。
「こんなもん、寝ながら覚えろってか。俺はじっとしてるのは性に合わねぇんだがな。」
「でも、これが一番早いのよ。」エマが彼をなだめるように言った。
シンがため息をつきながら、カプセルに横たわる。
「仕方ねぇ。終わったら、一番ムカつく地球人を見つけて、遊んでやるさ。」
他のホムンクルスたちもそれぞれのカプセルに入り、透明なカバーが静かに閉じる。シグが最後に操作パネルをいじりながら、眠そうな目で呟いた。
「はいはい、プログラム開始っと…。おやすみ~。」
カプセルの中で、全員がゆっくりと目を閉じると、学習プログラムが起動。膨大なデータが脳内に流れ込んでいく。これにより、彼らは地球での行動に必要な知識を短期間で完全に習得する。
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