第2話
魂のない肉の塊を入れた黒い袋の口を閉じ、私は小さく息を吐いた。
「これで全部終わりました」
「そうか。今回もご苦労だった」
校長先生が労いの言葉を述べる。月明かりだけが頼りの校舎内では、先生の表情までは伺えない。いつものことだった。
「それでは、その袋はいつものところに入れておいてくれ。私はもう行くから」
「了解しました」
三つに分かられた袋をそれぞれ手に持ち、肩にかけようとした。そこで不意に校長先生が振り向き、反射させた眼鏡で私を捉える。
「
「分かっています」
私が静かに頷くと、今度こそ校長先生は出て行った。
「やれやれ、あの人も大変なもんだ」
なんて同情している暇がないことは分かっていた。私は三つの袋の口をまとめて掴み、勢いと共に担ぎ上げる。駆け足で空き教室を飛び出し、校舎外に出た。空はとっぷりとした黒に覆われていた。朝方というよりまだ夜中だ。
急いで、しかし音を立てないようにしてゴミ回収小屋に行き、一般生徒が使っている回収箱の更に奥にある真っ暗なボックスに袋を詰め込む。
これは世間の中で一般ゴミとして処理しきれない特殊なもの──例えば死体──専用のゴミ箱だ。ここに入れれば中のセンサーが反応して、最低でも1時間後には管理人が回収に来てくれる。
理由は分からないが、特殊ゴミ箱がこの学校にあって助かった。そうでなければ、わざわざ明け方から車を頼んで市役所の特別課に運ばなければならないのだから。
一仕事を終え、手袋を外す。ぺたりと乾いた血液がこびりついたゴムの下の肌は汚れ一つついていない。いいことだ。
額に浮かんだ汗を拭いながら、私は空を仰いだ。それから校舎を見据える。
「一体、この学校はどうしてこう殺人事件が多いんだろうね」
死体を見るのは今月に入って三度目だった。最早呪いがかかっているとしか思えない。しかし、殺されるのはこの学校の生徒ではなく、全くの無関係の人。それが逆に謎を帯びていた。
「どっちにしろ、私の仕事が増えるだけではあるんだけどね」
私は歩きながら制服の上から着ていた死体処理時の特殊スーツを脱ぎ、携帯していた袋に入れる。それから束ねていたロングの黒髪を解いた。校門は大通りに面するため、人がいないことを確認してから裏門を飛び越えた。
一般生徒が登校してくる前に家に帰らなければいけない。家と言っても、政府から与えられた徒歩十分で着く賃貸アパートだけれど。
はぁ、とため息をついて。今日も疲れながら授業を受けなきゃいけないのかと落ち込む。
皇
そんな私の最近の日課は、校舎内に放置された死体処理から始まる。
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