第6話


ヤーサス!手紙ありがとう。ぼくはみんなからの手紙を、村のエメラルドの海で拾いました。中身が透けて見える透明な筒を見たのは、初めてだったから、拾ったとき、怖くなってお父さんに見せたんだ。お父さんは患者さんたちの眼帯を摘まむときみたいに中の白い紙を摘まんで「この怪しい筒め!」って、怒って、固い砂糖菓子みたいな真っ白な巖岩の間に放り投げちゃった。紺色と碧色の空にその透明な筒がキラキラ輝いていたのを今も覚えてる。あのとき、後からこっそり手紙を探しに行って、本当に良かった。こうやってみんなと文通できてるんだから。

ぼくのお父さんはお医者さんなんだ。クレタ叔父さんや村の皆の病気やケガが治らないのは悪霊の仕業なんだって。ぼくがお父さんの助手として、患者さんに焼いた魚を食べさせたり、窓を開けて空気を入れ換えたりすると、とっても怒られる。病を治す呪いはちっとも覚えようとしないのに、また変なことばかりして……名医ヘラクレイデスの息子は愚か者と笑われてるって。

正直に言うね。お父さんはぼくが愚か者だと信じさせようとしている。しかも、それはぼくの気のせいではない。ぼくは自分のことを愚か者だとは、どうしても思えないんだ。ぼくは大人になったら、アスクレピオスに自分で学校を建てたいんだ。

ケンもベンジャミンも、算術の試験がダメだったらしいけど、あんまり落ちこんじゃダメだよ!

ところで、ケンの好きな数字は「4」なんだね。ぼくの好きな数字は「 1.618034」です。黄金のような数列だと思わない?

あっ、そうだ!大事なことを忘れてた!ぼくのパスワードは「天と・された」です。また手紙書くね!

少年はペンを置く。

「おい!ヒポクラテス!何処へ行くんだ!?」父親の声にすぐ戻りますと叫び、ヴァルダ川まで一目瞭然に駆け出すその瞳はキラキラと輝いていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る