第14話 威厳と至高の砦、叡智の魔導士団

一方で、海は魔道師団へと足を運んでいた。王城から少し離れた場所に位置するその施設は、国家技術と魔法理論の粋を結集した壮麗な構えを見せていた。


漆黒の巨大な門には複雑に絡み合う魔法陣が輝き、見上げる者に圧倒的な威圧感を与える。


門の上空では無数の魔法使いが結界の維持と監視のために巡回しており、その姿はまるで天空を舞う守護者のようだった。


周囲に漂う魔力の粒子が空気を震わせ、異世界から訪れた海の肌にまで小さな静電気のような感触を残す。


ここは王国における「知」と「力」の中枢。選ばれた者だけが足を踏み入れることを許された、国家最高機密の神聖な領域だった。


「ここは貴様のような者が軽々しく来る場所ではない。早々に立ち去るが良い」

門番の低い声と鋭い視線が、海を射抜く。


「あの……王様から、許可を頂いて……」

海は小さな声で応じるが、門番のひとりは鼻で笑った。


「ふんっ、貴様があの勇者のお荷物の……」

しかし、もう一人の門番が眉をひそめ、鋭く同僚を睨みつけると、深々と頭を下げた。


「申し訳ございません、海様。王より伝達を承っております。不躾な態度、どうかご容赦くださいませ」


「いえ、お気になさらずに。門番さんのお仕事は、こうしてここを守ることですから」

海は小さく微笑みかけた。その柔らかな態度に門番は少し息をつき、深く頷いた。


「寛大なお言葉、痛み入ります。どうぞお通りください。研究室は、この建物の最奥部にある最も高い塔にございます」


門をくぐった海の前に広がったのは、王城とは異なる異質な空間だった。空には細かな魔法の光が帯のように流れ、地面には何重にも重ねられた魔法陣が脈動するように光を放っている。


無機質な石畳には精緻な紋章が彫り込まれ、まるで魔法そのものが生きているかのようだった。


やがて、海の前にオレンジ色の髪を後ろで束ねた若い女性が姿を現した。彼女の瞳は真摯な光を湛え、深い敬意を込めた笑みを浮かべている。


「初めまして、海様。私は魔道師団で初級魔道士兼研究員を務めております、エリアナ・フェリステッドと申します。どうぞエリアナとお呼び下さい。本日は、私が研究室へとご案内させていただきます」


その言葉遣いと立ち居振る舞いには、彼女の育ちの良さと礼儀正しさが表れていた。海は少し安心したように微笑み、頭を下げる。


「音無 海です。よろしくお願いします、エリアナさん」

二人は歩き出し、エリアナが柔らかな口調で語り始めた。


ここの建物って、凄いですよね。身を置いている私が言うのもなんですが、ここに居るだけで圧倒されてしまうんです。こんな私が居ていいのかな?って時々思っちゃうんですよね。


エレアナは先ほど見せた微笑みを一瞬で強張らせ緊張な面持ちで話を続けた。

海様、魔道師団が特別視されている理由は、その性質にございます。魔法は誰もが扱えるものではなく、魔法適性を持つ者だけが使える『選ばれた力』なのです。


しかし、その適性を持っていても、実際に魔法を自在に操れる者は一握りしかいません」

彼女の声には、魔法への畏敬の念が滲んでいた。


「では、ここに集まる魔道士の方々は、全員が特別な方々なんですね」


「はい。才能ある者たちが集められ、国家のために研究と訓練を重ねています。ただ……」

エリアナは少し言い淀んだ。


「……ここでは、才能だけではなく家柄や派閥が力を持つことも事実です。優れた才能があっても、立場の弱い者は埋もれてしまうことも少なくありません」


その言葉に、海は静かに目を伏せた。


「どこの世界でも、似たようなことが起きるんですね」


「ですが、私は信じています。海様のように異世界から来られた方は、この閉ざされた状況を変える鍵になるのではないかと……」


エリアナの純粋な言葉に、海は少しだけ胸が温かくなった。

二人は巨大なエレベーターに乗り込み、地下深くへと降りていった。


重い扉が開くと、そこには別世界が広がっていた。


壁一面に張り巡らされた金属の配管、蒼白い光を放つ魔力溶液が満たされたガラス容器、錬金術的な意匠が施された銅製の機械装置。


赤、青、紫……さまざまな色に輝く薬液が脈動し、天井からは無数の魔石が吊るされ、魔力の光を放っている。そして、中央には天井を突き破るほどの巨大なガラス管。


その中には金色に輝く魔力液が絶えず循環し、管を囲む制御台には無数のボタンと魔道文字が並ぶ。


海は息を呑み、目を見開いた。

「ここが……魔道師団の心臓部……」そこはまるで、夢にまで見た憧れの特撮映画の悪の巣窟。


異様で怪しい様々な光を放ち、海の心を一瞬で釘付けにした。しばらく、息をすることを忘れていた。


その光景に海の心臓の鼓動は高鳴りを抑えることができなかった。


その場に立つだけで、空気に含まれる濃密な魔力が海の肌を刺すようだった。

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