第12話 龍人族の兄弟子
「俺の名はスカイゼル・ヴァルドラグ。龍人族の末裔だ。一応、双神流の一番弟子ってやつだ。」
青年──スカイゼルはふと足を止め、僅かに顔を横に向けて言った。その横顔には鋭さと、どこか誇り高い表情が浮かんでいる。
彼の背中に刻まれた鱗は淡く光を反射し、その硬質な質感が彼の竜人族としての誇りを物語っていた。
「私は凛。高円寺凛よ。高円寺家の後継者候補。何か文句ある?」
凛は肩を軽くすくめながら堂々と言い放つ。その瞳には怯むことのない鋭い光が宿り、気品すら漂わせていた。
「凛、覚えとくぜ。」
スカイゼルは静かに呟くと再び歩き始める。その声にはわずかながら感嘆の色が滲んでいた。
「せいぜい、死なないように頑張んな。」
スカイゼルの声には冗談めいた軽さが含まれていたが、その裏には鋭い警告のような響きがあった。
「うちの師匠らは厳しいぜ。」
森の中で彼の言葉がこだまする。彼の言う「師匠」がどれほど恐ろしい存在なのか、その一言だけで伝わるほどの重みがあった。
凛はふっと息を吐き、挑むように笑みを浮かべる。
「大丈夫。私を誰だと思ってるの? 高円寺家の後継者候補よ。この程度の試練、乗り越えてみせるわ。」
その言葉にスカイゼルはわずかに口角を上げたが、彼の瞳にはどこか警戒心の残滓が宿っている。
二人は再び歩き始めた。
道なき道を進むスカイゼルの足取りは相変わらず迷いがなく、時折彼の尻尾が左右にゆっくりと揺れている。
その背中を追いながら、凛は口元に微かな笑みを浮かべる。
(この青年、面白いわね。でも、ただの案内役じゃない。きっと……何かある。)
彼女の瞳が鋭く光る。
ふと、森の奥から冷たい風が吹き抜け、二人の間に一瞬の静寂が広がった。
「なあ、嬢ちゃん──あんた、本当に覚悟はできてるんだろうな?」
スカイゼルが再び口を開く。その声には先ほどまでの軽さはなく、どこか試すような重さが宿っていた。
「何度も言わせないで。本気に決まってるでしょう?」
凛の言葉は短く、しかしその声音には揺るぎない決意が込められていた。
その後、二人は言葉少なに歩き続けた。
森の闇はさらに深くなり、足元に伸びる影はどこまでも濃く、そして不気味に揺れている。
やがて二人は大きな開けた空間に辿り着いた。そこには、苔むした石碑と不自然に並べられた石柱が点在している。
「ここから先は、お前の力次第だ。」
スカイゼルがそう言い残し、静かに脇へと退いた。
凛は目を細め、その先に続く道を見つめる。その瞳には恐れの色はなく、ただ確かな覚悟が燃えていた。
**山奥の庵での初対面**
「帰れ。お前みたいな小娘を相手にする暇はない。」
戸口に立っていたのは、筋骨隆々の大男-バラグスだった。鋭い目つきで凛を睨みつけ、その顔には「断固拒否」の意思がありありと浮かんでいる。
「私、高円寺凛と申します!」凛は頭を下げた。「この力を制御するために、双神流を学びたいのです!」
「知ったことか。」バラグスは短く返し、立ち去ろうとする。
その背後から、優しい声が響いた。「待ちなさい、バラグス。」
現れたのは品のある老婦人 -セレスティアだった。
深い緑色の瞳が凛を見つめ、その表情にはどこか興味を引かれたような色があった。
「この
「だからといって、簡単に教えるわけにはいかん。」バラグスは渋い顔で腕を組んだ。
「お前も知っているだろう。双神流を極めた者など、誰一人いない。ワシらを含めて誰一人もじゃ」
「でも、この
「……紺碧の瞳か。」彼は低く呟いた。その瞳には諦めも迷いもなく、ただまっすぐな決意が映っていた。
「大体、スカイゼル。何故お前ともあろう者が、こんな小娘を連れて来た。」
バラグスは腕を組み、鋭い眼光で凛を見下ろした。
その視線はまるで鋼鉄のように冷たく、容易には砕けそうにない圧力が宿っていた。
「枯れ木のような細腕で一体何ができる? この道はな、覚悟だけじゃどうにもならん。死と隣り合わせだ。そんなに甘かねぇ。オメーが一番知ってるだろうに。」
最後の言葉はスカイゼルに向けられ、彼は縮こまるように尻尾を丸めた。師匠から向けられるその重圧に、凛ですら無意識に息を止めていた。
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