第4話
祐太郎がバイトをしている店は、この辺でそこそこ人気のあるローカル店だった。学校が終わり、バイトに行くと言う祐太郎と並んで電車に乗る。
「で、昨日のメッセの件だけどよ」
ドア付近の壁に寄りかかった祐太郎が、メガネを押し上げながら口を開いた。
「ああ」
「何人かに聞いてみたんだけど、やっぱ花音なんて女子、俺らの学年にいないわ」
「だよな」
「違う学年なんじゃねーの?」
花音を見ていない祐太郎がそう思うのも無理はないが。
「……いや、本人が高一って公言してたらしいし」
「ふーん……」
祐太郎は気のない返事をした。と、降りる駅に電車が止まる。
「てか、駅前って言うからもっと学校に近いと思ってたんだけど」
学校の最寄り駅から三、四駅離れている。
「あー、知り合いと会ったら気まずいから、離れたところにしたんだよ。知らない人しかいないところで働くのも、悪くないぜ」
そんなことを話しながら改札を通り、駅を出ると、目の前にラーメン屋が建っている。店の外には二、三人が並んでいた。
「待ち時間十分ってとこかな」
「そんぐらいなら待ってるよ」
「悪いな」
祐太郎は店の裏口に向かい、旭は列に並んだ。
「そういえば、ちょっと考えたんだけどよ」
旭が注文した味噌ラーメンを持ってきた祐太郎が言った。
「あん?」
旭は早速割り箸を割っている。
「花音ってやつの話。俺たちが知らないってことは、俺たちとは別の学区に住んでるってことだろ? それなのにわざわざこっちに来てるなら、何かしらの事情があるんじゃねえかと思ったんだけど」
「あー……それもそうだな」
納得したように頷いた旭は「うまっ」と麺をすすっている。
「おい、話聞いてるか?」
「聞いてるよ。早く食わねえと麺伸びるだろ」
祐太郎がため息をつくと、旭は顔を上げた。
「同じ学校の奴らに聞かれたくなかったんじゃねえの?」
「そりゃねえだろ。この社会、街中で歌うなんてことしてたらネットに上がるだろ。どこで歌おうと同じだ」
「それもそうか」
「……てか、お前がそんなに女子のこと気にするなんて珍しいな。女子に興味なんてなかったじゃん」
旭は「ああ……」とチャーシューをかじった。
「どっちかっつーと、本人じゃなくて歌に興味あんだよ」
「歌?」
祐太郎が眉をひそめる。
「俺んち、母さんが好きだからよく音楽番組がついてるんだけどよ、そいつの歌、そこらの歌手より上手かったんだよ。なんつーか、人を惹きつけるっていうか」
「ふーん」
祐太郎が興味なさげに頷いた時。
「峰くん!」
店のエプロンをつけた若い女性が厨房から顔を出している。
「店長呼んでるよ!」
「うわやっべ! 悪いな旭!」
「おう、頑張ってな」
祐太郎が慌てて厨房に駆け込んでいくのを見ながら、旭はレンゲでスープをすくい、飲んだ。
ラーメンを食べ終わった旭は会計を済ませて店を出た。
「……何かしらの事情、ねえ……」
日が沈みかけている空を見ながら呟く。
旭が見た感じ、花音のあの笑顔に、裏があるようには思えないのだが……
(今週も行ってみるか)
リュックからヘッドホンを取り出した旭はそれをつけながら改札を通って行った。
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