【カクコン10短編】バッド・クリスマス〜ある新人サンタクロースの厄災〜

夏目 漱一郎

第1話 新人サンタの厄災(前編)

12月25日。この日は、世界的にクリスマスの日だ。

海外では、クリスマスはイエス・キリストの聖誕祭であり、キリスト教徒にとっては特別なイベント。そして、ここ日本では特にキリスト教徒である無いに関わらず、全国的に様々な老若男女が、イルミネーションで飾り付けられた街のあちらこちらでハッピー・クリスマスを祝っている。



【クリスマス・サンタクロース協会日本支部】


フィンランドに本部を構えるこの組織は、クリスマスに世界中の子供達にプレゼントを配る為の非営利団体。世界中に支部を持ち、そこには数多くのサンタクロースが所属していて、プレゼントを配るテリトリーの各家庭の家の地図、家族構成、子供の年齢、性別、好きなオモチャとお菓子etc……といった膨大なデータベースを共有しており、その業務に役立てている。


政府からの補助金と世界中の富裕層からの寄付を主な活動資金にして今までは特に何の問題もなく活動をしてきたサンタクロース協会だったが、ここに来てその活動において大きな問題が持ち上がってきた。


それは、2024年問題……主に運送業などで言われている。いわゆるである。


* * *



12月24日〜クリスマスイヴ〜

サンタクロースは、このクリスマスイヴから25日の朝までの間に全国のサンタクロースを信じる良い子のみんなにプレゼントを全て配り終えなければならない。



「よう、新人! いよいよ今年がサンタデビューだな。いいか、緊張してプレゼント配り忘れたりするんじゃねーぞ」


「はい!一生懸命配らせて頂きます!」


一人の新人サンタクロースに対して、ベテランサンタから愛の激が飛ぶ。


サンタクロースの仕事とは、ただプレゼントを配ればいいだけの単純な仕事ではない。自分が受け持つテリトリーの家族のデータを全て頭に入れ、どのルートを使えば一番効率良く配れるか、この家の子供は何時就寝するとか、どんなプレゼントやお菓子が好きか、性格はどんな子供なのか等、細かい事柄までを全て把握していなければならなかった。


その為、通常新人サンタは最初の一ヶ月間は研修に入り何度もシミュレーションを繰り返してから、初めて実際の業務に入るのだが、今年に至っては深刻な人材不足の為に、新人サンタといえどもいきなりぶっつけ本番のプレゼント業務を強いられる事となった。


「しかし、支部長。大丈夫でしょうか? いきなり新人にプレゼント配りなんてやらせて。何かトラブルでもあったら、日本支部の我々の立場にも問題が及びますよ」


「まあ、事だし大丈夫でしょう。何かあったら、ですよ」



* * *


サンタクロースからみて、日本の住宅事情というものは、海外のそれに比べていささか厄介な問題を有していた。


まず第一に、日本の住宅のほとんどには


「いやぁ〜うっかりしてたな……そう言えば、煙突無い家ってどうやって入ればいいんだっけな……」


新人サンタ、最初からいきなりのピンチ!


おまけに時刻は午前零時を過ぎていて、

ターゲットとなる家の灯りはすっかり消えていてた。この家の住人は寝るのが早いらしい。子供が寝静まっているのはいいとしても、大人までが寝静まっているのは、ちょっと想定外だ。


本当は、こういった煙突が無い家屋にプレゼントの配達をする場合には、サンタ・マニュアルに沿ったそれなりの手順が決められている。クリスマスの前日あるいは早い時間帯に親御さんに連絡をとり、家の裏口辺りの鍵を開けておいてもらわなければならなかった。


しかし、研修をやっていない新人サンタはその事を知らない。なのでこの家では、この時間にサンタが来る事を知らずに通常通りの厳重な戸締りをしてしまったのである。


「参ったな、これは。こんな時どうすればいいか、支部にメールして訊いてみようかな……」


支部ではサンタ業務に就く前に、なにか困った事があったらメールで質問するようにと、専用のアプリをダウンロードさせられていた。そのアプリを起動させて、支部に質問のメールを送ってみる。


『お疲れ様です。プレゼントを配る予定の家の前にいるのですが、煙突も無くて灯りも点いていなく、戸締りもしてあるのですが、どうしたらいいでしょうか?』


暫く待っていると、支部から返信が返ってきた。


『お疲れ様です。それは困りましたね。

では、【プランB】でいきましょう。プレゼントとは別のリュックにと思います。それを使ってなんとか家に入って下さい。』


「プランBってなんだ? そんなの初めて聞くんですけど。……」


ぶつぶつと独り言を呟きながら、新人サンタは指定されたリュックのファスナーを開ける。すると、そこから出てきたのは……


赤地に緑色のワンポイントの入った覆面マスク、同じく皮の手袋、懐中電灯、小型火炎放射器バーナー、ガムテープ、そしてバールと出刃包丁。


「何コレ……出刃包丁とか、何に使うんだよ? ケーキでも切るのか? 」


とにかく、これらの道具を使って家に入らなければならない。新人サンタは、道具をリュックに詰めて家の裏口に向かった。



* * *


「うわっ、ビックリしたああっ!」


裏口に廻った新人サンタの周りが突然明るい光に包まれた。防犯設備のひとつ、『人感センサー』である。センサーの範囲に人が近付くと一帯をライトが照らす仕組みになっている。


「この家、なんか防犯レベルが高いな……これは入るのに苦労しそうだ」


家の裏口にあるベランダに来た新人サンタは、手袋を着けた後に両手を広げ、おもむろにその窓の両端を抱えて上下に揺すってみるが、やはり窓はびくとも動かない。


「やっぱりダメか……昔の家だったらワンチャンこれでロックが開く窓があるんだけと、今の家はムリだな……」


しかし、なんとかして家の中に入らなければならない。新人サンタは、ベランダの窓ガラスに飛散防止のガムテープを貼り、その上をバールで殴り付けた。


バイィィィ〜〜〜〜ン!


「割れない!? そんなに頑丈なのか? このガラス……」


簡単に割れると思っていたベランダのガラスが思いの外頑丈な事に驚く新人サンタ。仕方がないので、バールを思い切り長く持ち、大きく振りかぶって両手でフルスイングさせた。


バリバリッバリッ!


割るには割れたがガラスの中に網が入っている為に手が入らない。新人サンタは、その網を火炎放射器バーナーで焼き切った。


「ヤバい、結構デカい音がしたよな……誰か起きて来なけりゃいいけど……」


しかも、この家の窓は二重サッシになっていた。ガラスを割ってやっと家に入れると思ったら、もう一枚ガラスがある。新人サンタはもう泣きたくなった。


「クソッ!もうアッタマキタ!」


もう一枚のガラスを、バールで思い切り殴り付けて割る。もうあれこれ考えている余裕なんて、新人サンタには無かった。


同じように網を火炎放射器バーナーで焼き切る。数十センチ開いた穴から右手を突っ込んでロックを開ける。


「やった! これでやっと中に入れる! 」


そう思って窓を開けようとするが、窓はびくとも動かなかった。


だ……」


* * *



この家に来てから、一体何分が経過しただろう?一般的に空き巣などは、『五分間で家に侵入出来なければその家に空き巣に入るのを諦める』と言うが、その観点から言えばこの家の防犯システムは、かなり高いと言える。


とくに最近は、『闇バイト』なんていう物騒な事件が多発しているので、こういった防犯に金をかけている家が多いのだろう。


新人サンタは家に入る為、数十センチ開いた穴を更に数十センチ拡げて、そこから家の中に侵入した。因みにここまでに約三十分が経過していた。(後編に続く)


◆作者の夏目漱一郎です。(≧∇≦)

この作品は、カクヨムコン10 短編部門の応募作品です。実は、この作品の他にも三作品の短編を応募しています。

【リュウゼツランの花の下で】

https://kakuyomu.jp/works/16818093089873352608

【増殖する卵】

https://kakuyomu.jp/works/16818093086709870093

【サンタからの素敵な贈り物】

https://kakuyomu.jp/works/16818093089365137226

どの作品もタイプは違いますが、魅力的な作品に仕上がっているのではないかと手前味噌ながら感じている作品です。

興味を持たれた方は是非作品フォローして時間が空いた時などに読んで戴ければ幸いです。








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