第47話 リーゼと二人きりの勉強会をしてみた
クラリスの件について調査を依頼したものの、結果が出るまでは何もできない。
その待つ時間のなんと長いことか……。もどかしさを埋めるために執務に集中しようとしたが、ふとした瞬間にクラリスのことが心配で頭をよぎってしまう。
気分転換に書斎へと足を向けた。机に広げた本を読み進め、領地経営や法律の知識をさらに深めようとした矢先、何か物音がした。
そっと振り返ると、書棚の整理をしているリーゼの姿が目に入った。
「……リーゼ?」
声をかけると、彼女は少し驚いたように振り返った。頬に少し汗を滲ませ、頑張って動いていたのが伝わる。
「あっ、セリオス様! すみません、書斎の本が少し乱れていたので片付けをしていました!」
「別に謝る必要はない。お前がここにいるとは思わなかっただけだ」
思いがけず彼女と二人きりになったこの状況が、なぜか胸をざわつかせる。だが、どうせならこの時間を有意義に使いたい。
「そうだ、リーゼ。お前も一緒に勉強しないか?」
「え……私ですか?」
彼女は驚いたように目を丸くし、手にしていた本を慌てて棚に戻した。その仕草がいちいち可愛らしい。
「そうだ。領主の補佐役として、少しでも知識があれば役に立つだろう? ほら、難しいことは抜きにして、まずは基礎的なところからでもいい」
「……セリオス様と一緒に勉強できるなんて……! 嬉しいです!」
その一言に、俺の心臓が跳ねた。そんな純粋に喜ばれると、照れくさくて仕方がない。
「じゃあ、座れよ。今から始めよう」
「はい!」
リーゼが少し緊張した面持ちで俺の隣の椅子に腰を下ろす。その距離が妙に近く、彼女の髪からほんのり甘い香りが漂ってくる。
「じゃあ、まずはこれだ。基本的な税制についての話から。領地運営には避けて通れない部分だからな」
俺が開いた本を二人で覗き込む。彼女の顔が近い。少し触れれば鼻が当たってしまいそうなほどだ。
「ここに書いてある内容を見てみろ。収益を上げるためには、税率だけではなく……」
「……すごい……こんなに細かい計算をされているんですね……」
彼女が小さく呟くたびに、その息遣いが耳に心地よく響いて、なんとも落ち着かない。何よりも、意識しているのは自分だけなのだろうか?
「税率の決定だけじゃなく、住民たちの生活が成り立つように考慮するのも大事だ。ほら、ここを見てみろ」
俺は自然と彼女に近づく。すると、彼女の肩が軽く触れ合い、リーゼが小さく肩を震わせた。
「すまない」
「いえ、ごめんなさい! 近すぎましたか……?」
「いや、別に構わない。むしろ、ちゃんと聞いてくれてるのが嬉しい」
俺がそう言うと、リーゼの顔が真っ赤になってしまう。どうやら意識していたのは俺だけではないようだ。視線を本に戻しても、彼女の微かな恥じらいが伝わってくる。
「セリオス様……本当にすごいですね。こんなにたくさんのことを学んでおられて……」
「貴族ならば、本来もっと幼い頃から勉強して、領地に還元できなければならないのだろうが、どうしても一人では足りぬ」
「セリオス様は頑張っています!」
「ありがとう。俺だけじゃなく、リーゼにも助けてもらいたい」
「……私が……セリオス様のお力になれるなら……喜んでお支えさせていただきます!」
彼女の小さな声が、胸に沁みた。こんなに一途に俺を想ってくれる彼女を、どうして大切に思わずにいられるだろう。
「リーゼ」
名前を呼ぶと、彼女が顔を上げた。その瞳が俺をまっすぐ見つめてくる。
「お前がいてくれるのが、俺にとってどれだけ心強いか、分かっているか?」
「え……そんなこと、私……」
「お前の存在が、俺を支えてくれている。いつも俺を見て、俺を信じてくれるお前が……俺には必要なんだ。不安なとき、リーゼの言葉に救われる」
彼女は目を見開き、頬を染めたまま、言葉を失っているようだった。
「それに……お前とこうして一緒にいる時間が、俺の心を落ち着かせてくれる」
彼女が小さく笑った。その笑顔があまりに眩しく、言葉が途切れる。
「私も……セリオス様といる時間が大好きです」
その一言が、どうしようもなく胸を熱くさせた。
「……ありがとう」
俺は思わず、正面にあるリーゼの額に自分の額をくっつけた。
すると、リーゼの顔はさらに赤く染まった。
「せ、セリオス様! それは……ずるいです!」
彼女が照れながらも微かに笑い、俺もつられて笑った。
「そうか? お前があまりに可愛いから、ついどこか触れ合っていたかったんだ」
「も、もう! 仕方ないですね!」
仕方ないと言いながら離そうとせずに、身を預けてくれるリーゼは本当に優しい。
「ありがとう、リーゼ」
触れ合っていた時間は少しだけで、顔をの熱さと共に勉強へと戻った。
暖かな光に包まれた書斎で、二人だけの時間がゆっくりと流れていく。
穏やかで、どこかくすぐったい幸せな時間。この時間を壊したくない。
だけど、彼女に対して、俺はどこかで壁を越えきれない一線があって……。
もしも、その一線を超えた瞬間に、全てを失ってしまうんじゃないかという恐怖が芽生えていた。
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あとがき
どうも作者のイコです。
今日はここまで
不穏と不安が織りなす第二章は、なかなかに葛藤が悩ましい。
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