第1章 新しい家族

第1話

今の私には、一体何が残るんだろう。


私はここで、何をしているんだろう。


何かを守るために、ここまで来たのに……。


大切な人を裏切ってまで、ここに来たのに。


『お前には幸せになる資格なんか、ない』


あいつはそう言って、私に屈辱のみを与えた。


私の『青春』を、見事に真っ黒に塗り潰して、足跡を刻み込んでいったあいつ。


憎くて、おぞましくて、殺したいほど恨んでいたのに、あいつにとって私はまだまだ子供だったから、殺すことなんかできなかった。


そう。


あいつには、憎しみしか湧かない。


私の恋も、憧れも、憎しみによって踏みにじられて、涙はやがて枯れた。


ねえ、神様。


私、そこにいっても、いいですか?その罪を知らないような蒼い空に、私を受け入れてくれる場所は、ありますか?


私は、新宿の高層ビルの屋上にいて、強い風に包まれながら、空に向かってゆっくりと両手を広げた。もう、痛みも悲しみも、感じない。絶望も、もうすぐ消える。


「萌梨…」


お母さんの声が、聞こえる。


私は、ここから飛ぶよ。


もういいんだ。やるべきことは、やった。


あとは、愛する人たちが幸せでありますように。






やがて、新宿のとある高層ビルの下にパトカーが勢いよく数台集まってきてブレーキ音を響かせて止まった。警察官や刑事たちは警戒体制を取りながらパトカーから飛び出して、一斉にビルのエントランスに駆け込むと、非常階段のドアを開け、急いでビルの上へ、上へと駆け昇っていった。


「早く!みんな、急げ!!早くっ…!!」


先頭にいるのは、捜査一課の坂井刑事。無精髭だが、その瞳はギラギラと燃えていた。

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