第10話 清水寺と地味な女

次男つぐおくんのお兄さんってどんな人なの?」


「うーん・・・。イケメンだと思うよ、多分。僕はわかんないけど、世間の評価的にはイケメンかなぁ。あと可愛いものがこの世で一番好きだね」


「可愛いもの?」


「うん、ウサギとかクマとか動物のキャラもんが好きそうなんだよね」


「じゃあ、これはどう?」

可愛らしいマスコットが新選組の服をきたぬいぐるみをもって微笑む。


(君が一番かわいいよ)

なんて口が裂けても言えない。


その後も次男つぐおは美園とああでもない、こうでもないと言いながら、お土産を選んだ。

歩夢あゆむは、自分だけお留守番と知って相当いじけていたので、お土産をたっぷり買って帰らなくてはならない。

そう言い訳しながら、次男つぐお美園みそのが勧めるものをどんどん買い漁っていった。


17時になって清水寺に行くと、かなりの人がすでに並んでいる。


「すげぇな」

浩太は感嘆の声をあげた。


「仕方ないよ、この時期だけの期間限定だからね」

神原かんばらに「さぁ、並ぼう」と促されて、列に並んだ。


ゆっくり、ゆっくり列が進んでいく。

その間も6人でいると、色んな話題がでて会話はつきない。


「あ、綺麗・・・」


叶夢かのんの声で空を見上げると、満月が出ている。


「本当だ。綺麗ですね、叶夢さん」


神原が叶夢に微笑みかけると、「えぇ」そういって叶夢はまた満月を見上げた。


その横顔は次男つぐおの見たことのない顔だった。


やっとのことで清水寺に辿り着くと、想像以上に幻想的で綺麗な景色が広がっていた。

こういった寺社仏閣に来ると、厳かな気持ちになる。


「写真撮ってやるよ」

浩太に言われて、美園と2人で並ぶ。

肩が触れそうなほど近い。

美園のふわふわな髪がすぐそこにある。

なんとか笑顔を作って写ろうとすると、「私達も入るわ」「悪いねー」と強引に叶夢、神原が入ってきた。

ツーショットではなくなったが、あれ以上美園の近くにいると、好きなのがバレそうな気がしたので少しホッとしていた。


近くの旅館に着くと、男子と女子で部屋をわけて一旦それぞれの部屋に荷物を置くことにした。

夕飯は男子の部屋で一緒に食べる予定だ。

叶夢が美園に何かしないか心配ではあったが、女子部屋に行くわけにはいかない。


「ねぇ、次男つぐおくんって美園ちゃんが好きなの?」


部屋に着くなり、神原に聞かれて、答えに戸惑っていると、「そうっすよ」と浩太が返事をした。


「おい!なんでお前が答えるんだよ」

「別に隠すことじゃないだろ?」

「そうだけど・・・」


「神原さんは、次男つぐおの姉ちゃんのことどう思います?」


まさかの核心をつく質問に奏汰が息をのむ。


「そうだね、素敵な人だと思うよ」


「素敵な人っていうのは恋人にしたいなってくらいですか?」

浩太がさらに質問を重ねる。


「僕みたいな人間は無理だよ」

神原はそう言うと、「さぁ女子が来るまでに荷物を端に寄せて」と言って話を終わらせた。


旅館の夕食は豪勢で、かなり美味しかった。

アルバイト代のほとんどが飛んでいったが、これだけ美味しい料理なら後悔はない。

そして何より美味しい料理を食べて、嬉しそうに笑う美園が見れればそれでいいのだ。

次男つぐおはビールを飲みながら、旅行に来てよかったなぁと改めて思っていた。


夕食後はそれぞれお風呂に入って、また22時ごろに男子部屋に集合してお酒でも飲みながら翌日の予定を確認することになった。


「神原さん行かないんですか?」


旅館の温泉に入ろうと、神原を誘ったが「僕はあとではいるよ」と断られてしまった。

仕方なく2人で温泉に入って、しっかり温まった後、お風呂上りにお土産でも見るかとロビーに向かうと、桃子ももこが座っていた。


「白井さん?」


次男つぐおが声をかけると、「お風呂上がりですか?」と聞かれたので、なんとなく二人は桃子の向かい側のソファーに座った。

桃子はお酒に酔っているのか頬も赤く、少し目が赤く、うるんでいる。


「えぇ、今は行ってきました。桃子さんは?」

こういう時さらっと下の名前で呼べる浩太はすごい。


「今から入ろうかなと思ってるんですが・・・」

なんとなく声に元気がない。


「どうかしました?」


次男つぐおが尋ねると、「大したことじゃないんですけど・・・」といってうつむいた。


「私って地味だと思うんです」


「え?」

思わぬ回答に驚きの声がでる。


「叶夢さんみたいに仕事バリバリできる美人ではないですし、美園ちゃんみたいにかわいくて若々しいわけでもなくて・・・仕事もミスはしないんですけど、企画を提案してもなんかパッとしないっていつも言われてしまって・・・」


「そんな、別に地味ってことは」


「いや、いいんです。わかってるんです、地味だってことは。でもなんとか頑張ろうって思ってたんですけど、今日の旅行でよくわかりました・・・私って平凡で面白くない人間だって・・・さっき皆さんが送ってくださった写真を見返したら、これだけ写真撮ってるのに私が写っているのは2枚だけ。ほんとに地味で目立たない女なんですよ・・・」


膝の上に置いている手をぎゅっと握りしめている。


「いいんじゃないですか?地味で」


浩太がはっきりというと、「え?」という顔で桃子は顔を上げた。


「編集者の人の仕事ってどんなものか僕にはわからないですけど、読者のことはわかります。雑誌を読んでる人ってみんなが派手な生活を送っているわけじゃないですよね?むしろ地味で目立たない生活を送っている人がほとんどのはずなんです。そんな人が読む雑誌を派手で目立つ人ばかりで作ったら、読者の興味からそれた内容になるかもしれません。桃子さんみたいなタイプの方も編集に必要なんじゃないでしょうか?」


浩太がそういうと、桃子は目を潤ませながら浩太を見ている。


「さ、今日は楽しい旅行の日です。明日もありますし、嫌なことはすべて温泉に流してきちゃってください」


浩太に促されて「ありがとう」と桃子はいうと、お風呂に向かっていった。


「お前・・・返しうますぎじゃない?」

「そうか?思ったままいっただけだよ」

次男つぐおは、そう言って笑う浩太を少しかっこいいと思ってしまった。


地味で目立たない・・・

次男つぐおも写真を見返すと、4枚しか写っていない。

ほとんどカメラマンだったからだ。

美園と釣り合っているように見えない。


「つらいよなぁ」

次男つぐおがそうつぶやくが、次男つぐおを励ましてくれる声はなかった。

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