第5話「追われる身で」



「急いで、この車に!」

地上に出たアリサたちを待っていたのは、珍しい旧式の自動運転車だった。AIネットワークに接続されていない、完全な手動運転が可能な車両。


「私が運転します」

サイトウが運転席に飛び込む。エンジン音が唸り、車は闇の中へ消えていく。


「後ろ!」

ダイスケの叫び声。未来的なデザインの白い車が、彼らを追っていた。


「あれは...」

バックミラーに映る運転席。人影はない。完全自律走行の追跡用車両。そして助手席には、アリサの目を疑うような姿が。


銀色の肌を持つ人型の存在。人間とも機械とも違う、完璧な均整を持った女性の姿。


「ポストヒューマン...」

ダイスケが歯を食いしばる。

「マリアか」


「知ってるの?」

「元は私の...」

言葉の途中、衝撃が車を揺らした。


「このままじゃ振り切れない」

サイトウがハンドルを切る。車は地下駐車場へと潜り込んだ。


「エレベーターを!」

全員が飛び込むと、ドアが閉まる。しかし次の瞬間、何かが上階から降下してくる音。


「来る!」

天井のハッチが開き、マリアが優雅に降り立った。銀色の瞳がアリサを捉える。


「カミヤ・アリサ。あなたの娘、ユリのことは私が預かっています」

その声は、不思議な魅力を持っていた。

「人類に与えられた進化の機会。なぜ、それを否定するの?」


「進化?」アリサが問い返す。「それとも画一化?」


一瞬の沈黙。

マリアの表情が僅かに揺らぐ。

「私たちは...」


その時、エレベーターが地下最深部に到着。扉が開くと、そこには地下鉄の廃線が広がっていた。


「行くぞ!」

ダイスケが投げた発煙弾が、空間を白く染める。


逃走の中、アリサの脳裏にマリアの表情が焼き付いていた。あの揺らぎは、何を意味していたのか。

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