第6話 夏に至る季節

 調査と議論を重ねて、僕らは確かに真実へと近づいていた。

 青葉祭の爆破事件については、大きな進展があった。金城家の庭で火薬を見つけたんだ。

 なぜ金城家の庭を調べたか。簡単に言ってしまえば、前に雄斗が喋っていたことを思い出したからだ。

 ――秋奈、花火をしないか。二人でだ。うちに大量の花火があるんだ。打ち上げ花火だってある。じいちゃんの特注だぞ。

 秋奈が言うには、花火に使われる火薬は黒色火薬で、火をつけたら爆発しながら燃えるらしい。凶器はこの火薬で間違いないだろう。

「前提として」秋奈が言う。「ライターなどで直接火薬に火をつけた場合、犯人は間違いなく巻き添えになりますわね。となると、この火薬は時限爆弾だという線が濃厚ですわ」

 火薬にどうやって火をつけたかは、まだ見当がつかない。それは後々、証拠が見つかってから考えることにした。

 青葉祭当日は、金城一家の動向を探り、事件を阻止することになった。

 失踪事件の方はというと、残念なことに、情報が得られなかった。

 まず僕らは、役場に直接「行方不明者の名簿をもらえないか」と掛け合った。が、個人情報を渡すわけにはいかないと拒否された。もっとも、この交渉は形式的なものでしかなかったけれど。

 僕らに必要なのは、古賀夫妻の名前が記載されているであろう「P2」だった。名簿の一番最後に古賀夫妻の名前が確認できれば、秋奈の仮説――古賀夫妻だけは別の事件に巻き込まれている可能性がある――が真に近づくからだ。

 結論から言うと、「P2」は手に入らなかった。おまけに役場に侵入したモリリンが捕まった。何時間も叱責された挙句、僕ら五人に対する不満までぶちまけられたらしい。憔悴した顔のモリリンがぼろぼろ泣きながら話していたのだから、間違いない。

 ときどき、なぜ僕らが事件解決に奔走しているのか分からなくなる。舞香の好奇心から始まった作戦は、いつしか町全体を敵に回している。

 もう後には引けなかったんだろう。知らず知らずのうちに、僕らは追い込まれていたんだろう。この閉塞的なコミュニティ――青葉町に。

 リーダーの僕も、発案者の舞香も、もうやめようとは言わなかった。だからやめなかった。それだけなのかもしれない。

 そうそう、舞香と秋奈のタイムトラベルの特性も分かってきた。

 一言でいえば、舞香は制限時間付きのジャンプで、秋奈は一週間前に全てを戻すリセット。こっちは強力な分、制限も大きい。

 舞香と秋奈が能力を手にしているあたり、女性しか使えない力だってことは理解できる。けれど、女性なら誰でも力が使えるんだとしたら、あまりに無法が過ぎる。平塚らいてうの「元始、女性は太陽であった」をストレートにぶつけられていることになる。

 最も簡単なのは、ナカダチだけが超能力を使えるって考えることだ。だけど秋奈はナカダチじゃない。どうして力が使えるのかは、まだ分かっていない。

 最後のタイムトラベルから、秋奈は一度も蛇を見ていない。当然力は使えていない。モリリンに「あのタイムトラベル、やっぱり舞香の力だったんじゃないか?」とまで言われていた。

 一方の舞香は、いつでもどこでもタイムトラベルできる。その代わりに時間制限があるようで、一定時間が経てば戻ってきてしまう。おまけに舞香の記憶の範囲でしか飛べない。

 考えることが多くて忘れていたけど、過去の未来の青葉祭で、僕と舞香は未来に飛んだ。なぜ未来に飛べたかは、まだ分かっていない。

 この謎について、うちの探偵はこんな推測を立てていた。

「青葉祭当日は、山にいる蛇の封印が解けるのではないかしら。ナカダチが海に祈りを捧げることで、元々は海に住んでいた蛇の力が強まる、という解釈もできますわね。だから超能力が増幅して、海星と舞香は未来に飛べたし、わたくしもタイムトラベルができるようになりましたの」

 余談だけど、青葉祭が行われる七月九日は夏至だった。一年で最も太陽が起きている、夏の中の夏。

 ずっと前に優希さんが語っていたことだけど、日食というものを、蛇が太陽を食べてしまう現象だと捉えている民族がいるんだそうだ。

「太陽を食べていた蛇が、空から地上に降りてくる。それが夏至なんだって考えたら、日常が幻想に思えて楽しいでしょ?」

 この町の誰よりも幻想に興味を抱いて、東京へと旅立ったはずの優希さんは、精神疾患になって帰ってきた。

 幻想さえ優希さんを見放したのなら、誰が彼女を救えるんだろう。

 僕らが失踪事件と爆発事件に挑むのは、きっと、この人のためなんだと思う。

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