dinner time ~white~
二十二時、有紗の勤める会社の定時がとっくに過ぎた頃。
相手先からはいまだ、仕様のスケジュールに関する連絡は来なかった。
有紗は今日中に帰れない可能性が出てきたことに内心焦りながらも、真剣にディスプレイを睨みつつキーボードを叩いている。
そんな中、同僚が有紗に声をかけた。
ミーティング中にほとんど喋らなかったが、彼がプロジェクトのリーダーだ。
「白石さん、もう帰ったら? 帰るって言っていた十七時をとっくに過ぎているよ。それに先方、もう帰ってるよ」
「ハァ!?」
「あそこいつも定時で上がるし。仕様変更の件、今日中に分かりますか? って投げたら、ステータスがオフラインだった」
「じゃ、じゃあ仕様変更どうするの? 来週どうなるの? みんな死ぬの? 世界は滅び、そして新世界が始まるの? メテオフォールなだけに?」
「大丈夫! 死ぬときはみんな一緒だヨ!」
「ヤッタネ!」
度重なる仕様変更と残業により、有紗とリーダーのテンションは相当バグっていた。
「二人とも、思考がバグってるので早く帰って土日休んでください。相当ヤバいです」
なお、彼らのバグを直すには長期休暇が必要な模様である。
素直に帰ることにした有紗は、電車に乗ると百花にメッセージを送った。
『と言うわけで、予定よりも遅いのですが早く帰ることになりました、まる……と』
『ケーキ作ったから早く帰っておいでー』
百花から送られてきたキウイのレアチーズケーキの画像に、有紗は思わず涎が垂れそうになる。
『ごちになります!!』
スマホから顔を上げた有紗はふと、隣に立っているひとがスマホを横持ちにしてゲームを遊んでいることに気付く。
職業的な興味もあって、ゲームを遊んでいると思しき人物が近くにいると有紗は気になって仕方がない。
チラチラッと気付かれない程度にチラ見してみると、それは有紗が平日よく見ている画面だった。
(私の関わったゲームだ! しかも成長レベルが高い! 沢山遊んでくれてるんだね、嬉しいな~!!)
仕事で理不尽なことは多々あるけれども、誰かが遊んでくれているのはとても嬉しい。
それに、有紗はなんだかんだ言っているけれども、物を作るこの仕事が好きなのだ。
ただただ、働き方がブラックなだけで。
電車に揺られながら、有紗は小さな喜びを噛みしめた。
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