転生したら異世界の王子だった

@kunimitu0801

第1話「無能王子としての覚醒」

 アラン・ヴァン・ノルディアは、目を開けた瞬間に自分が異世界に転生したことを悟った。

 周りはまるで絵画のような美しい景色が広がっており、天井には煌びやかなシャンデリアがぶら下がっている。その光が、豪華な装飾が施された天井を照らしていた。ベッドの上で寝転がっている自分の体を見てみると、どう見ても「普通のサラリーマン」ではなく、すっかり高貴な服装をしている。アランは何故か一つの確証を得た。どうやら、彼の転生先は「異世界の王子」という立場らしい。

「え……?」

 信じられない思いで体を起こすと、目の前に鏡が置かれていた。恐る恐るその鏡を覗き込むと、そこには見知らぬ青年の顔が映っていた。

 顔立ちは整っていて、目元が少し鋭いが、どこか優しげな雰囲気を持った王子らしい顔。髪の毛は金色に近いブロンドで、髪型もきちんと整えられている。服は王族の証である装飾が施された豪華なドレスシャツに、上品なジャケット。

 やっぱり。どう考えても異世界の王子様だ。

「な、なんで俺が……?」

 頭が混乱し、アランは思わず声をあげる。全身を見下ろしても、見覚えのある部分はひとつもない。何もかもが違っていた。

 その時、部屋の扉が音を立てて開く。そこに現れたのは、年齢的には自分より少し年上の女性だった。青い髪と、端正な顔立ち。彼女はアランを見て微笑んだ。

「お目覚めですね、殿下。ご気分はいかがですか?」

 その一言で、アランは愕然とした。彼女が言った「殿下」という言葉に、今さらながら気づく。

「殿下?」

 アランは自分の声が震えるのを感じながら呟いた。

「どうされました?殿下」

 リリスは心配そうに顔を覗き込んだ。

「俺のフルネームと地位を言ってくれるか?」

「は、はい。アラン・ヴァン・ノルディア殿下、第二王子様でいらっしゃいます」

 リリスは少し戸惑いながらもそう答えた。

 どうやら自分は、異世界の王国の「第二王子」だということらしい。その事実が信じられず、アランはしばらく呆然と彼女を見つめていた。だが、彼女は動じることなく、優雅に微笑みながら部屋の中に入ってきた。

「体調が優れないようでしたら、すぐにお休みいただいても構いませんよ。ですが、殿下には今日、王宮でいくつか重要なご用事がございますので、できるだけ早くお支度を整えてください」

 アランはその言葉に、ようやく現実を受け入れ始めた。自分が転生してきた場所が、異世界であることも、そして王子という立場にあることも。

「……わ、わかった。ありがとう。」

 言葉がうまく出てこない。それもそのはずだ。アランは現代日本で普通のサラリーマンとして働いていた人間だ。そんな自分が突然王子になったとしても、全く何もできるわけがない。

「それでは、隣のお部屋をお掃除させていただきますね。どうぞ、ごゆっくりお支度を」

青髪の女性はそう言い残し、出て行った。彼女の背中を見送りながら、アランはますます混乱していた。

「こんなこと、どうすれば……?」

どう考えても無理だ。王子としての経験も知識も何もない。周囲に期待されるような能力もない。全てが異世界の「王子」としての役割を果たせる自信には程遠かった。

「こんな王子、どうしたらいいんだよ……」

 ため息をつきながら、アランは立ち上がる。その時、ふと目に入ったのは、床に散らばった数枚の書類だった。彼はそれを拾い上げてみた。書類には王国の紋章が押されており、内容は見覚えがないが、どうやら重要な文書らしい。

 アランはそれを手に取り、しばらく見つめた後、ふと心に決意を抱いた。

「……やるしかないのか。」

 王子として、この国に何か貢献できるのかはわからない。しかし、何もしなければ、このまま無能なままで終わってしまう気がしてならなかった。

 そう思った時、扉が再び開き、リリスが部屋に入ってきた。

「殿下、お掃除が終わりました。準備はできましたか?」

 リリスが戻ってきた。

「ありがとう、リリス。…何をすればいい?」

「えっ」

「頼む」

 リリスは先程以上に戸惑っていた。だがアランの真剣な顔を見て何かを決心した。

 リリスは優しい表情で微笑んだ。

「まずは、王宮内でのご挨拶が必要です。殿下が無事に目覚められたことを報告するために、王様や他の貴族の方々にお会いしに行きます」

「王様……?」

「それでは早速まいりましょう」

 アランは驚きながらも、リリスに従って王宮を歩き始めた。この世界で王子として生きるためには、まずは最低限、王宮内での礼儀を学ぶ必要があるだろう。

 だが、彼はそれに自信が持てなかった。王子として自分が何をしていいのか、何をするべきなのか、まったく見当がつかない。しかし、今はやるしかない。無能王子としてのレッテルを貼られた自分をどうにか変えていくために。

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