第十四章 不思議な灯篭 2

 目をさますと、部屋の中が暗かった。もう夜中なのだろう。

 ゆっくりと身を起こす。

 部屋の中では宇晴と琳琳、そして春蘭も、寝息を立てて眠っている。


 今見た夢は実際に、私がまだ猫だった時分におきたことだった。たぶん、白花妃……いや、婀真の話を聞いて思い出したのだ。


「謎の、灯篭」


 婀真は私に話したのだ。中元節の宴の日に、ある妃から不思議な灯篭を見せられたのだと。

 あの灯篭を持ってきた客人は、きっと婀真が言っていたのと同じ人だった。


「灯篭に、一体どんな仕掛けがあるってんだよ」


 気づけば真冬だというのに体中から汗を流していた。

 喉が渇いた……。

 立ち上がろうとしたら、頭がくらくらして、その場にしゃがみこんでしまった。

 すると隣で寝ていた春蘭が目を覚ました。


「どうしたの思月。目が覚めたの?」


「うん……」


 春蘭は布団から出て私の元に寄り添い、手のひらを私のおでこにぴったりとくっつけた。


「な、なに?」


 どぎまぎしながら思わずたずねる。春蘭の体が近すぎて、肌と肌がぴたりと触れ合いすぎて、緊張してしまう。


「やっぱり、熱があるよ。思月、なにかの病になったのかもしれない」


 そう言って春蘭は顔を曇らせた。


「あ、そう……なの?」


 そんな、おでこに手を触れただけでわかるものなのだろうか。人間の知能高すぎてたまにびっくりする。


「喉、乾いてる?」


「う、うん」


 うなずくと、春蘭はすぐに立ち上がった。


「お水持ってきてあげる。思月はお布団に入って寝てな」


「わかった」


 病か。病について詳しくはないけど、なんとなくわかる。場合によっては、やばいやつだ。春蘭のお母さんだって、病で死んだんだしな。とりあえず言われた通りに布団で寝ていた方がいいんだろう。


「明日も仕事は休まないとね」


「そんなの、許してもらえるかなあ」


 幾人かの気の強い女官の顔が思い浮かんで不安に思ったが、春蘭はきっぱりとした声で言った。


「誰がなんと言ったって、私が休ませる。変わりがいなくたって、私一人で配膳してくればいいだけだし。それに尚食局では流行病の女官は休みをとらなきゃならない決まりだよ」


「そ、そうだったんだ」


「うん」


 いつになく春蘭が強い態度でそう言うので、私は全て春蘭の言うとおりにして、判断を任せることにした。


 春蘭だって今日は雪の中仕事をして疲れでいるだろうに。明日もまだ道に雪が残っていて、台車を押すのも苦労するだろうに。

 それでも、私が元気になるまで春蘭は私が働くことを許さないだろうから、おとなしく寝て治すしかない。


 しばらく横になっていると、春蘭が水差しと茶碗を手に戻ってきた。そして水差しから茶碗に水を注ぎ、私に手渡す。


「はい、お水」


「ありがと」


 上体を起こして受け取り、水をゆっくりと飲み干す。

 火照った体に染み入るようで、心地よい。


「思月、結構汗かいてるね」


 そう言うと春蘭は布巾を持ってきて、首筋や額の汗を拭いてくれた。


「ちょっと帯を緩めて、襟のところ広げるね」


「……え、うん」


 春蘭は手際よく襟元を広げ、胸元や背中の汗まで拭いていく。


「なんか、こんなに面倒みてもらって、ごめん」


 だんだん恥ずかしくなってきてそう言うと、春蘭は「なんでそんなこと言うの?」と笑った。


「私は、思月のためになることは、なんでもしたい」


「……ほんとに、ありがと」


 その言葉だけで、体の具合の悪さも消えていくみたいに感じた。

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