第4話「謎の男、クラウド」



バトルホールでの勝利から二日後。空とアリアは「忘れじの書架」で新たなカードを探していた。


「おや、噂の新人か」


低く落ち着いた声に、二人は振り返る。そこには黒いコートを纏った青年が立っていた。白に近い銀髪。鋭い眼光。


「クラウド様!」

店主が慌てて腰を折る。空は眉をひそめた。


「クラウド?」


「この街一の物語使い。いや、もしかすると王都でも五指に入るかもしれん」

店主の説明に、クラウドは無表情のまま店内を見渡す。


「レインとの勝負を見させてもらった。面白い物語だ」


クラウドの視線が、アリアのカードに向けられる。


「だが、気をつけた方がいい。全ての物語が、語られるべきとは限らない」


その言葉に、アリアが僅かに身を震わせた。


「何が言いたい?」

空が一歩前に出る。


「バトルで確かめるか」



バトルホールには、クラウドの名を聞きつけた観客が溢れていた。


「来いよ、新人」


クラウドが取り出したのは、漆黒のカード。「深淵の語り部」。


空は「紡ぎ手の戦士」を構える。しかし――


「物語の深淵よ、全てを飲み込め」


一瞬。空間が歪んだかと思うと、戦士の姿が闇に呑まれていく。


「なっ!」


「未熟な物語は、深淵の前では無力だ」


クラウドの冷たい声。「紡ぎ手の戦士」は跡形もなく消失。空のライフポイントが一気にゼロまで減少する。


会場が静まり返る。あまりにも圧倒的な力の差。


「お前のカードには、まだ真の物語が宿っていない」


クラウドの視線が、再びアリアに向けられる。


「そして、お前。封印された物語に手を出すな。目覚めれば、取り返しのつかないことになる」


「アリアの記憶が、そんなに危険だというのか?」

空は敗北の痛みを押し殺して問う。


「暴かれるべきでない真実もある。それだけだ」


クラウドは静かに去っていく。その背中には、計り知れない物語の重みが感じられた。



「あいつの言う通りなのか?」

店に戻った空がアリアに問う。


「私には……分からない」

アリアは自身の曖昧なカードを見つめる。

「でも、知りたい。この物語の、本当の意味を」


その時、アリアのカードが微かに光を放った。まるで、彼女の決意に呼応するように。


「なら、一緒に探そう」

空は敗北を糧に、新たな決意を固める。

「俺たちの物語は、誰にも止められない」


夕暮れの街に、予感めいた風が吹き抜けていった。

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