第2話「記憶を持たない少女」



戦いの余韻が残る路地裏。空は手の中のカードを見つめていた。「紡ぎ手の戦士」は、かつてない輝きを放っている。


「記憶と共鳴……これが、この世界のカードの力なのか」


考え込む空の耳に、かすかな物音が届いた。路地の隅。瓦礫の陰から、一人の少女が覗いていた。


「見てたのか?」


銀色の髪。深い蒼を湛えた瞳。年の頃は十六、七だろうか。少女は物怖じする様子もなく、空に歩み寄った。


「あなたのカード、私のとよく似ています」


差し出された一枚のカード。確かによく似ている。しかし、少女のカードには妙な特徴があった。カードの絵柄が、まるで霧がかかったように曖昧なのだ。


「君のカードは……」


「私には、記憶がないの」


少女は淡々と言った。名前はアリア。自分が何者なのか、どこから来たのか。それらの記憶が、すべて失われているという。


「このカードだけが、私の持ち物だった」


アリアの手の中で、曖昧な絵柄のカードが微かに明滅する。


「物語カード専門店なら、何か分かるかもしれない」


空の言葉に、アリアの瞳が輝いた。



「物語카드?面白い組み合わせじゃのう」


専門店「忘れじの書架」の主人は、二人のカードを交互に見つめた。白髪混じりの髭を撫でながら、意味ありげに頷く。


「この世界では、物語こそが力の源。人々の記憶や思い出が、カードという形を取って具現化する」


店主の説明は続く。カードは単なる道具ではない。持ち主の記憶や感情と共鳴し、その力を増幅させる。それが「物語カード」なのだという。


「しかし、記憶のない者のカードというのは、初めて見る」


アリアのカードを眺める店主の表情が曇る。


「これは……封印されておる」


「封印?」


「おそらく、強大な物語の力を秘めているのじゃ。故に、記憶と共に封じられた」


空とアリアは顔を見合わせた。少女の失われた記憶。封印された物語。そこには、この世界の重要な秘密が隠されているに違いない。


「アリア、一緒に探してみないか?」

「何を?」

「君の記憶と、この世界の物語を」


夕暮れの街に、二つの物語が交差し始めた。アリアは小さく頷き、その瞳は決意に満ちていた。


「記憶の欠片と引き換えに、このカードを預けていってはどうかの?」


店主が差し出したのは、一枚の新しいカード。「始まりの詩」と書かれている。


「これは?」

「物語の始まりにふさわしい一枚じゃ。お主たちの旅に必要になるはずじゃ」


空はカードを受け取った。淡い光を放つそれは、まるで二人の出会いを祝福するかのようだった。


アリアの記憶と、この世界の真実。全てが繋がっているという予感が、空の胸を満たしていた。

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