第37話 レオナ視点

 ソルシエールがわたくしの閉じ込められた小屋の中で、謝る声が、聞こえます。


 もう、耐えられませんでした。

 わたくしがガブリエル様に渡した指輪がこんなところで悪用されてしまいました。

 きっと、わたくしを、ソルシエールを、貶めるために組まれた計画でしょう。


 でもここで、わたくしがソルシエールに許しの言葉をかけてしまったら、きっとソルシエールはわたくしのために戦ってしまう。


 もう、そんなことは、わたくしが嫌なのです。



 小屋に閉じ込められ、チグリジアにいたときのような生活が始まりました。

 いえ、食事を持ってきてくださる方以外使用人も一人もいないので、それよりもっと寂しいと言いましょうか。


 

 ソルシエールは自分がわたくしに罪を被せたと言いますが、それは違います。魔女を魔術島に閉じ込めた王族が、魔女の言葉を信じるはずがありません。


 ソルシエールがわたくしに疑いをかけたのは事実ですが、

『でも、レオナ様? わたくし、聞きましたわよ。魔獣を生み出した魔石はあなたのお母様の形見だったのですよね?』


 というガブリエル様の言葉が決定打になったに違いありません。


 ガブリエル様は、王太子のアナトール様を幼いころから補佐し、陛下にとっても信頼のおける人物だったのですから。


 だから、本当はソルシエールの責任ではないのです。


 なぜそれを言わないかって?


 それを言えば、ソルシエールは城に残ります。


 それでは、ダメなのです。


 ソルシエールは自分の好きなように生きる権利があります。魔術島に閉じ込められたことで失われた十年間を早く取り戻さなければならない。

 わたくしの護衛をしていれば当然、命の危険に晒されます。


 わたくしのために死んでほしくない。

 命を、無駄にしてはならない。


 だから今わたくしが突き放すことで、ソルシエールに逃げ道を作るのです。

 ソルシエールはああ見えても情に厚い方ですから、逃げてくれるかどうかはわかりませんが。

 それでも、未来を掴んで欲しいのです。


 ソルシエールは優しいです。何の価値もなかったわたくしに死んでほしくないと言ってくれた。命を捧げることはできないと言ったことは、一見冷たいように見えますが、わたくしはむしろ気が楽になったものです。

 だって『あなたのために死にます』では、居心地が悪いでしょう?

 

 でも、ガブリエル様からもらった薬を、ソルシエールがわたくしの代わりに飲んだとき、潮時だと思いました。

 このまま一緒にいれば、ソルシエールの身が危ない……。


 それでも、上手く切り替えられたわけではありません。今でも、ソルシエールが扉を叩くたび、声を聞くたび、出ていって彼女を抱きしめたい。そんな感情に襲われます。


 ソルシエールを苦しめている感情は、後悔と……アミルのことでしょう。

 近しい人が亡くなったのではないか、という恐怖と悲しみは、身がよじれるようにつらいものです。

 でも、わたくしはアミルは生きていると信じています。


 だって、お母様の形見から誕生した魔獣がアミルを傷つけるとは、考え難いから。

 でも、ソルシエールには言えません。会話をしてしまったら、決心が鈍ります。


 ソルシエールは、この先どうやって生きていくのでしょう。

 でも、わたくしはソルシエールを信じています。


 だって、友達ですから。


 わたくしもソルシエールを少しでも守れたと思うから、そう呼んでも良いですよね。


 手紙を書きます。ソルシエールがいつまでも元気でいられるようにと願いを込めて。



 さようなら、ソルシエール。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る