第33話

 アミルに貯蔵庫まで連れていかれて。しかも、お姫様抱っこだった。


 やめてちょうだい。余計に、つらくなる。

 でもこれが最後。


『ソルシエール。アミルと一緒に貯蔵庫へ行ってください』


 レオナの覚悟を決めたような言葉に、言い方はおかしいけれど、わたしは完全に負けた。

 すでに恋人だかなんだか知らないけど、相手が違う女を抱えて二人きりになる場所へ向かうなんて、わたしだったら絶対に嫌だ。

 でも、レオナはわたしの体調を優先してくれた。


 レオナは本当に気高い。だから、醜いわたしは、醜いまま、結ばれることはない。


 貯蔵庫へ着いて、地面に降ろされると、ぼうっとしていた頭はクリアになり、いつも通り動けるようになった。


「ありがとう、アミル」

「ああ。それよりレオナが心配だ。ガブリエル様の息がかかった者たちのところで一人だからな」


 肩を回しながらつぶやくアミル。


 少しはわたしの心配してくれたっていいじゃない。

 まあ、無理か。

 諦めはするけど、想いは簡単に消えるもんじゃない。


 レオナは……。友達であるまえに、わたしはレオナを守る責任がある。


「明日、レオナに聞いてみるわ。ガブリエルに何かされた? って」

 そう言うと、アミルは満面の笑みを浮かべてくれた。


 これがわたしを心配して向けられた笑顔だったら良かったのに。



 翌日、レオナを迎えに三階の部屋に向かい、部屋に通された。

 椅子に座っていたレオナと顔を合わせると、まず最初に体調を聞かれ、良いと答えたら安心したような笑みを浮かべた。

 でも、それきり。どこか悲しそうな表情をしていて、心ここにあらずといった感じだ。

「ねえ、レオナ王女。ガブリエルに何かされたんじゃないの?」

「いいえ。特に何も。大丈夫です」


 何を聞いても、大丈夫、とそっけなく繰り返すばかりだった。


 わたしがいきなり目の前で倒れてショックだった? アミルと二人きりになったから心配した?


 わたしがさらに踏み込もうとすると、リーシュが間に割って入ってきた。


「ソルシエール。今日、レオナ様は体調が優れないのです。今日はお部屋で休みますので、部屋の外で護衛をお願いします」

「そうなの? 大丈夫?」


 わたしがレオナの顔を覗き込むと、レオナは首を振った。

「大丈夫です。わたくしはベッドで休ませていただきますね」


 そう言うと、席を立ち、ベッドにもぐりこんでしまった。

「……リーシュ。何かあったの?」

「……いいえ」

 リーシュもうつむくばかりで何も言わないので、わたしは首を傾げながら部屋を出た。



 冬の太陽が真上に昇ったころ。レオナがのっそりと部屋から出てきた。リーシュを連れている。

「ちょっと……中庭へ。外の空気を吸ってきますね」

「わたしも行くわ」

 レオナについて行こうとすると、レオナは振り返って、こう言い捨てた。


「いえ。ソルシエールはここにいてください。もう、守られるわけにはいきませんから」


「は、ちょっと……」


 わたしは、リーシュだけを連れて中庭へ向かうレオナの背中を、あっけにとられて見つめることしかできなかった。

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