32話 蛇の呪い

翌朝、目を覚ました進也は、自分の隣で寝息を立てている秋菜に視線をやると、小さく微笑む。だがその微笑みは、すぐにどこか物悲しい表情へと変わる。こうやって、自分が普通に朝を迎えられるのは、後何回くらいだろうか。


そんな余命宣告をされた患者のような事を考えながら、秋菜を起こさないようベッドから降りた時だった。



「ミラアルク!? ミラアルク!! 大丈夫でありますか!?」



ミラアルクと同じベッドで眠っていたエルザが上体を起こし、ただならぬ様子で声を上げている。


昨日はエルザも負い目を感じていたのだろう。付きっきりでミラアルクの看病をしていたエルザだが、途中で疲れて眠ってしまい、ヴァネッサにミラアルクと同じベッドに寝かせられていたのだ。


エルザの尋常じゃない取り乱し方に、進也も思わずエルザの視線の先のミラアルクに目をやる。


ミラアルクの額からは、大粒の汗が流れており、呼吸は浅く荒い。また顔は赤く、額に触れると凄く熱かった。重傷を負ってはいるが、ここまで衰弱するものなのか。


たった一晩のあまりの急変に、進也もエルザもどうすればいいのか分からずに居ると、ミラアルクが着ているTシャツの襟元から、黒い何かが動いたのが見えた。



「ん?」


「どうしたでありますか? 進也」


「ミラアルク......ちょっとごめん」



不安気な様子で問いかけてくるエルザには答えず、どういうわけかミラアルクに一言謝罪を述べる。そして進也は、ミラアルクのTシャツの襟元に手をかけると、そのまま勢いよくTシャツを縦に破いた。


ミラアルクの豊満な胸が露わになり、相手が年頃の女の子という事もあり、少々罪悪感が湧いてくる。だが今進也の視線を釘付けにしているのは、そんな年頃の女の子の魅惑的身体ではなかった。



「こ、これって!!」



進也とエルザの視線が釘付けにされているモノ、それはミラアルクの上半身に侵食してやると言わんばかりに、ベッタリ張り付いた黒いヘビの影だった。


ミラアルクが苦しそうに身悶える度に、黒いヘビの影はそれを嘲笑うかのように蠢く。



「んーー...どうしたの? 進也。朝から」



進也とエルザの声で目が覚めたのだろう。後ろから秋菜の眠気混じりの声が聞こえてくる。だがそんな眠気も、ヘビに侵食され、衰弱しているミラアルクを見て、すっかり吹っ飛んだのだろう。進也の隣で、手を口に当て、目を見開いている。



「な、何でありますか!? これ」



エルザが驚きを隠しきれないと言った様子で、そう言った時だった。


パリンッッッ!!!!



「呪いよ」



窓ガラスが割れる音と共に、それに答える聞き覚えのある声が聞こえてきた。三人が慌てて声がした方を見ると、そこには不敵な笑みを浮かべたレヴィーナが立っていた。



「貴様ッ! これは貴様の仕業か」



レヴィーナの姿を捉えた瞬間、進也が鋭い眼光でレヴィーナを睨みつけながら問う。そんな進也に対し、レヴィーナが余裕を含んだ笑みで答える。



「ご名答。呪いを解いて欲しければ、昨日のクリスタル水晶を渡して、おとなしくアグリー様の配下につきなさい」


「くっ!!」



進也は、ベッドの上で辛そうにしているミラアルクに目をやると、奥歯を噛み締める。だが、そんな時だった。



「クリスタル水晶ならここにあるわよ?」



突然ドアが開け放たれたかと思うと、そこには褐色の肌をした美女、ヴァネッサが透き通るようなクリスタル水晶を持って立っていた。


そう、あの偽のクリスタル水晶を持って。












































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