16話 日本のトップ

「ただいま、稀血と金だよ」



日の光がすっかり落ち夜になると、秋菜が帰ってきた。だが金という言葉を聞いて、進也が首を傾げる。



「姉さん、金って。どういう事だ?」


「あぁ、ヴァネッサさんに頼まれたのよ。何か使うみたいよ? ってヴァネッサさんは?」


「ヴァネッサならまだ帰ってないゼ」



ミラアルクが答えると同時に



『ぴんぽんぱんぽん、ミラアルクちゃん、エルザちゃん、今日お姉ちゃんは紗綾ちゃんのお家に泊まることにしました。そういう事だから、そっちの事はよろしく頼んだわよ』



という何とも気抜けする様なヴァネッサの声がミラアルクとエルザの耳に聞こえる。所謂テレパシーというやつだった。前世でも三人は、この方法で戦闘時に連絡を取り合っていた。



「ヴァネッサ、今日はあの紗綾の家に泊まるって。さっき連絡があったゼ」


「連絡って」


「さっきテレパシーで連絡があったであります」


「へぇ。便利なのねぇ」


「それより輸血だゼ。今日は特に力を使ったからな」



ミラアルクが言うと、秋菜がすぐに輸血の準備をする。そして進也には、注射器を渡す。

それを見たエルザが首を傾げる。



「進也は血、要らないでありますか?」


「あぁ、俺は不完全じゃないからな」


「となると、本物の吸血鬼か!?」


「まぁな。お前らには話してなかったけ。俺は妹未来をアイツから取り戻す為に、自ら怪物になる事を選んだ」



使命感に駆られた様子で言う進也を、秋菜がどこか悲しそうな目で見つめている事に、ミラアルクとエルザは気づいていなかった。





「進也、今日の事で少し話があるであります」



布団を敷いていた進也にエルザが質問をしてきた。



「どうした? エルザ」


「今日のあの人間達は一体...何でこの世界を支配している化け物の配下についてるでありますか?」


「アイツらは元々日本のトップの人間だったんだ。化け物アグリーの''力が手に入る''という言葉と、''人間のまま生かしといてやる''っていう言葉に唆されたバカさ」


「力とは?」


「俺もその辺はよく知らないけど、多分アイツが人間に与えた力の事じゃないかって思ってる」


「そうでありますか。それにしても日本のトップまで手玉に取るとは」



エルザが驚いていると、ドアが勢いよく開き、ミラアルクが入ってくる。



「エルザ! 寝ようゼ」


「ミラアルク...そうでありますね」



ミラアルクがエルザと共に布団に入ろうとする。だがふと進也の方に視線を送る。



「な、何だよ」


「いや今日はその、ていうか今日も助けられたゼ。お前はウチに踏み出す勇気をくれたゼ」


「バカ、助けてもらったのは俺の方だ。明日も早いからもう寝るぞ?」


「あ、あぁ。お休みだゼ」














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