第7話 出会いは突然に
どし~ん!
「痛っ~い!やだ。ごめんなさい。私ったらよく確かめもせず通りに走り出て…ああ、大丈夫ですか?」
リリーシェは年配の女性にぶつかって転んだ。だが、相手の女性も尻もちをつき荷物を落としてしまった。
リリーシェは急いで年配の女性に走り寄る。
貴族まで行かないにしてもドレスもそれなりの仕立てのようで髪もきれいに結っている。
リリーシェは慌てる。
「ほんとにすみません。お怪我はありませんか?」
「ああ…あたたた。腰が…」
おばあさんは腰を痛めたらしく立ち上がれない。
「あの…少し腰に手を当ててもいいですか?私、癒しの力があるので治しますから」
おばあさんがうなずく。
リリーシェはおばあさんの腰に手をそっと当てて念じる。
手の周りをピンク色の空気が包み込んで痛めた腰にその光が吸い込まれて行く。
「どうですか?まだ痛みますか?」
「うん?あれ、痛くない。あんた凄いじゃないか。竜人さんかい?」
「いえ、違います」
「人間がそんな力を?凄いねぇ。ありがとう助かったよ。私は急ぐからここで失礼するよ」
「いえ、こちらこそ。すみませんでした。あの、荷物を」
リリーシェは慌てておばあさんの荷物を拾う。
「ああ、ありがとう。あんた名前は?」
「リリーシェと言います。本当にすみませんでした。あの…お気をつけて」
そう言って気を付けるのは自分じゃないかと思う。
「ああ、わたしゃこの辺りで工房をやってるカルダというもんだ。まあ、土産でも買うつもりなら店にでも顔を出しておくれ。カルダに聞いたって言えばいいさ」
「おばあさん。あっ、いえ、カルダさんはエイダールシュトールで工房をされているんですか?」
「ああ、ほれ、あの向こうにオステリア工房って名前があるだろう。あれが私の店だ」
「…あの、私、宝石彫刻師になりたいんです。もし良かったら働かせて頂きたいんですが…」
「えっ?あんた女だろう?、いや、失礼。リリーシェとか言ったね。無理だね。うちは男しか雇わないんだ。女が入ると男どもの気が散ってしまうだろう」
カルダはしっしと手を振る。相手にならんと言いたいらしい。
「でも、仕事場を別にするとかすればいいのでは?それに女でなければ気づかない事もあるかも知れないじゃないですか」
リリーシェは少しふてくされ気味に言う。
「リリーシェとか言ったね。あんた言うじゃないか。それだけ言うなら相当の自信があるって事かい。じゃあ経験はあるんだろうね?」
カルダはリリーシェに睨みを利かせる。
「いえ、あの…それは…実は勉強はしましたが実際の経験はありません」
カルダは期待して損をしたと言う顔でリリーシェを見た。
「なんだ、経験もないのに…こりゃずいぶんと自信家じゃないか。わたしゃねぇ、そんな奴は大っ嫌いなんだ。さて帰るとするか…」
もう用は済んだとばかりに荷物を抱えた。
「カルダさん。お願いします。私やる気だけは誰にも負けません。下働きでも何でもします。だからチャンスを下さい」
「おや、今度は下働きかい。都合がいいんだね。そんな人間は信用できないんだよ。何しろ希少な石や宝石を扱うんだ。失敗すればかなりの損害を被るのはこっちなんだ。気安く思ってもらっちゃ困るんだよ。いいから帰りな。ったく。とんだ時間つぶしだ」
カルダは苦虫を嚙み潰したような顔でリリーシェを見た。
「カルダさん。ちょっといいかな?」
そう言ったのはユーリだった。
カルダもユーリの顔は良く知っているらしくふっとほおを緩ませる。
「これはユーリ様。いつからいらっしゃったんです。もう、お人が悪いんですから、それで御用は?」
「ああ、リリーシェさんの事なんだが、どうだろう。私に免じて試しに彼女の腕を見てもらえないか?、いや、今でなくてもいいんだ。カルダさんの時間がある時で」
「そりゃもう、ユーリ様のお口添えと言う事ならお断りするわけにはいきませんので」
「えっ?いいんですか?ほんとに?でも、やっぱりこんなのいけません。ユーリ様のご迷惑にな「リリーシェさん、雇うと決まった訳じゃないんだよ」わ、わかってますけど。でも…」
「ああ、当たり前だろう。さあ、ユーリ様はお忙しいんだ。すぐに店に来てもらおうか。でも、見込みがないなら例えユーリ様の口添えでも容赦はしないからね」
「も、もちろんです。ありがとうございます」
こうしてリリーシェはオステリア工房で腕を診てもらうことになった。
(それにしてもカルダさんユーリ様と私への態度変わり過ぎじゃありません?)
リリーシェは素直に喜べないままカルダさんについて行った。
もちろんユーリ様も一緒に。
(神様どうか就職出来ますように…)
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