第5話 仕事探しは難しい?
リリーシェは最初に王都ヴァイアナのギルドを訪れた。
「すみません仕事を探しています。宝石彫刻師の仕事希望なんですが」
ギルドの受付係(中年のおじさん)が眉を寄せた。
彼は少し小太りで一見人懐こそうな顔をしている。
(ほっ、神経質そうな人じゃなさそう。この人なら親切に仕事紹介してくれるかも…)などと脳内で勝手な判断をする。
「はっ?あんた女だろう?宝石彫刻師は男の仕事だ。女にそんな仕事はない。嫌なら他を当たってくれ」
(えっ?何だ期待して損した。ほんと。けんもほろろに言ってくれるわね。私がそんな事で諦めるとでも?)
リリーシェはもう一度大きな声で尋ねる。
「いいから彫刻師の仕事はあるんですか?教えてください」
おじさんは顔をしかめると、いいか良く聞けみたいに話を始めた。
「ああ、募集はしている。だが、大体あの仕事は誰でもがやれる仕事じゃないからな。いつだって人手不足だ。でもなぁ…」
(なにそのため口。ああ、そうですか。女には無理って言いたいんですね)
「もういいです。だったら行ってみますので」
「おい、無理だって言ってるのが分からないのか?」
おじさんの眉が上がって手が伸びてリリーシェの腕を掴んだ。
「何するんです!放してくださいよ。そんなの行ってみなきゃわからないじゃないですか!」
おじさんは呆れたように掴んだ腕を放す。
「ったく。女のくせにど偉い生意気な奴だ。まあ、追い返されるのがおちだ。後で泣きついても知らないからな。勝手にしろ!」
その時だった。
ギルドに一人の男が入って来た。
銀色の長い髪は風になびいたのか少し乱れていて切れ長の瞳からは紺碧色の瞳は見たこともないような宝石のように輝いている。
そんな美しい色合いを持っているくせに顔つきは精悍な顔立ちで体躯も良く身なりもかなり良さそうな男だった。
「おい、何事だ?外にまで声が聞こえているぞ。女相手にそんな声を出すんじゃない!」
その男は眉を寄せてさもいやそうな声で言った。
「こ、これはユーリ様。何でもないんです。この女が無理なことを言うもんでつい」
「女、初めて見る顔だな。この国の者か?」
その男の目がリリーシェに向いてすがめられる。
「いえ、ピュアリータ国から来た‥もので‥す…」何だか声がすぼむ。
「ここにいるということは仕事をしに来たという事か?」
「はい、そうですが、何か問題でも?」
「いや、やけに喧嘩腰だがこっちはそんなつもりはない。この国は自由な国だ。女が仕事をする事に問題はない」
「ですよね~良かった。私何かいけない事でもあるのかと心配しましたよ。ではわたしはこれで失礼します」
またしてもその時。
「女。名は何という?」
「はっ?名前を聞くならそっちが名乗ったらどうなんです?」
「ハハ。面白い奴だ。俺はユーリ・キャリスだ。これでどうだ?」
「ユーリ・キャリス…どこかで聞いた事があるような…いや、気のせいか」
「おい、気安く話なんかするんじゃない。この方は竜帝のお孫さんだぞ。ったくなんて失礼な女だ!申し訳ありませんユーリ様」
ギルドのおじさんが慌てて謝る。
「ああ…いえ、申し訳ありません。私はリリーシェと申します。ではこの辺りで失礼します」
「そう急ぐなリリーシェとやら、それで職探しはどこへ?」
「どこだって…あっ、いえ、エイダールシュトールに行くつもりです」
リリーシェは慌てて失礼な態度を改める。
「エイダールシュトール?君がか?」
ユーリは眉を顰める。
(なによ。そんなにおかしい事?これでも私前世で宝石デザインの勉強してるんですけど…)
「いけませんか?」
「いや、女性の宝石彫刻師なんて初めて聞いたから」
(それはどうもすみませんね。って言うかそんなに珍しいの?どうしよう。雇ってもらえなかったら私の努力が水の泡となるって事?って言うかリリーシェはそうじゃないけども)
「どうだろう。俺も一緒について行ってもいいか?もしリリーシェさんにその見込みがあるなら…その口をきいてもいいが」
「ユーリ様そんなことしなくていいですよ。無理に決まってます。ユーリ様がそこまでする事はありませんよ」
(いちいちこのおじさん頭にくる!)
「ユーリ様とかいいましたね。いいですよ。私が出来るってところを見せますよ。どうぞ一緒について来て下さい!」
(あぁぁぁ、やってしまったかも。余計な事を言った)
「いいね。その心意気。気に入ったよリリーシェさん。じゃあ行こうか」
リリーシェはその頭ふたつ分ほど大きな男と一緒にエイダールシュトールに向かうことになった。
(どうしよう。もし、使えないって言われたりしたら…それにしてもこの人のまとう空気がすごい気がする…)
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