第2話 旅のはじまり
この世界に魔王と言われる奴は、四体居るらしい。
東西南北に別れて、お互いに権勢し合い、つるむ事無く均整が取れて居ている。
どれか一つが欠けると、残りの三体の魔王が国盗りに乗り出して、大変な事に成ると言う。
均整が取れて居ると言うことは皆同じレベルと言うことだ。
一体倒せるなら、残りの奴も倒せると言う事だ。
何も問題ない、俺はそう考えていた。
「ちょっと、マジで魔王を倒すって言ってんの?あんたバカなの?」
「うるせぇなぁ、じゃあ、お前は付いて来るなよ」
「無理無理、こんなとこで一人になっちゃたら、私死んじゃうじゃない。 嫌よ、付いて行くから、付いて行かせて下さい~」
「ふん、サブは来るだろ」
「まぁ、もうここに居る理由はないしオッケーっす、行きます」
「軽いなぁ、お前そんなキャラだったっけ」
こうして俺たちは、魔王を倒すべく旅に出たのだ。
俺たちの居る場所は西の国なので、とりあえず狙いは西の魔王だ。
「リリィ、お前何か攻撃できんのか?」
「なによいきなり、こんな可愛いフェアリーが攻撃なんて出来る訳ないじゃない」
「じゃあ、足手まといだなぁ」
「待って、ちょっと待って、今考えるから、置いて行かないで」
「今考えるって……」
「ゆ、弓矢ならやったことあるわ、一度だけだけど……」
「弓矢って、フェアリーの大きさの弓矢だったら、矢なんて針みたいなもんだろ。 やっぱ足手まといだよな」
「なによ、自分だって同じフェアリーじゃない。 ちょっとリングを手に入れただけで、もう天狗ですか?そのリング私に貸しなさいよお……弓矢だってねぇ、矢の先に猛毒を塗り付ければ、立派な攻撃になるんだからね」
「ん?毒矢か……リリィ、お前悪い事考えるなぁ」
「あんたに言われたくないわよ」
「いけるかもなぁ……サブ、この世界にボウガンってあるのか?」
「そんなもんは無いけど、この先にドワーフの村があるっす。 もしかしたらそこで作れるかも知れないっすよね」
「ドワーフって言やぁ、あれだよな、物作りが得意な種族?」
「そうっす」
「なんかトントン拍子に進んで行くなあ、まるで小説みたいだぜ」
そうして俺たちは、ドワーフの村へ向かう事になった。
ドワーフの村へ入ると皆がサブを観て目を丸くした。
そうだった、サブは魔物なのだ。
ゴーレムがいきなり村に入ってきたのだ、ビックリするはずだ。
「サブ、お前は目立ち過ぎるぜ。 ドワーフ共が怖がって居る、村の外で待機しとけよ」
「それもそうっすね、解りました」
サブが段々と軽いキャラに成っている様な気がするのだが、アイツあんなキャラだったかなぁ……
まぁいいや、サブを待機させてリリィと二人で村に入った。
さすが物作りが得意な種族だ、色んな店がある、村と言うよりは町だ。
その中で一番大きな店に入った。
「お、珍しい。 可愛いフェアリーちゃんが二人でどうしたの?」
店の奥から職人風のドワーフが声を掛けて来た。
「あの~、ちょっと作って貰いたい物があるんだけど……」
「物作りは私らの仕事やからね、どんな物を作りやしょう」
俺はリリィの武器として、スナイパーが持つライフルの様なボウガンを、絵図を書きながら説明した、ちゃんとスコープが付いたヤツだ。
ドワーフのおっさんは、ふ~んとか、なるほど~とか言いながら、最後は任せてくれと言う頼もしい返事が返って来た。
ついでに矢に毒を塗りたいと言ったら、サソリムカデとか言う猛毒が、ちょうど入荷したばかりだと言う小説の様な展開になった。
三日後に完成品を取りに来てくれと言った。
じゃあ代金はその時にと約束して店を出た。
「あんたお金なんて持ってんの?」
店を出ると早速リリィが聞いて来た。
「いや、ないよ」
「じゃあどうすんのよ?あんたバカ?」
「フフフ、踏み倒すに決まってんだろ。 商品を取りに行く時はサブに行かすんだよ。 さすがにゴーレムからは銭金取れないだろ」
俺はこんな事が得意なのだ、良い子は絶対に真似しないでくれ。
「わ、悪ぅ~、あんた悪ねホント」
「なんだよ、お前の武器だろ。 じゃあお前が金払うか?」
「こ、今回は特別に目をつぶって置くわ」
お前だって充分悪いじゃねえかと、そう思ったが言わずにおいた、面倒臭いからだ。
「そんなことより、腹減ったぜ。 どっかホテルに宿泊しようぜ、後払いでよ」
今度は、リリィは何も言わなかった、大人しく付いて来る気だ。
共犯成立。
サブは俺にとってクレジットカードのようなものだ。
「何でも好きなの食えよ」
「いいの、ねえ、ホントに良いのね」
リリィは大食いだった。
こんなちっこい身体の、いったいどこに入って行くのか解らないくらい食って居る。
俺も久し振りの食事だ、おまけになんとビールもあるのだ。
「でもサブちゃん、なんだか可哀そう」
リリィが思っても居ない発言をした、コイツにそんな感情は無いことは解って居る。
「心配すんなよ、飯が不味くなる。 どうせ今頃、村の外で岩でも食ってるよ」
「ま、それもそうね。 私ずっとこのホテルで暮した~い」
「展望浴場が有るらしいぜ。 後で入りに行こうぜ」
「ちょっとぉ、チャムのエッチ。 あんた心は男なんでしょ、やだぁ~」
「おまえバカか、俺の身体も女の子なんだぜぇ。 べつにお前の身体なんか見て欲情するかよ、冗談じゃねえ」
「ホント、じゃあ行こ、行こ、展望浴場」
コイツがこんなに喜ぶとは思わなかった。
たまには贅沢も悪くはねえ。
あっという間に三日が立っちまった。
「リリィ、サブを呼んで来てくれや、踏み倒し、いや、勘定の時間だ」
「はい、わかりましたぁ」
こういう時のリリィは物分かりが早い。
あっという間にサブを連れて来た。
ゴーレムの力は凄まじかった。
村が凍り付いた様になり、どこに行ってもお代は結構ですと来た。
リリィのボウガンも無料でむしり取ってきやがった、さすがは俺の弟分だ。
ボウガンの出来は素晴らしい物だった。
射程距離は一キロもあり、自動で矢がセットされる仕組みで毒は猛毒、そこら辺の魔物だったら一秒で殺す。
あとは、まぁリリィの腕次第ってとこだ。
リリィはいっちょ前にサングラスなんか掛けやがって、まるでスナイパー気取りだ。
このドワーフのおっさん腕が良いなあ、仲間にしたいくらいだぜ。
「サブよう、ドワーフのおっさんをちょっと連れて来いよ」
サブはよく言う事を聴く、娑婆(前世)で散々鍛えてやったからな。
「えええ、私を魔王退治に連れて行く?」
「なあ頼むよ、おっちゃん、来てくれよ。 おっちゃんみたいに腕の良い鍛冶屋がどうしても要るんだよう」
「はぁ、そない言われても店を空ける訳には……そや、そない言うなら私の弟を連れてってやって下さいな」
「弟?」
「はい、頭は少し抜けてますが腕は私以上です。 今回のお嬢ちゃんの自動弓矢も殆んどが弟作です。 弟にして下さい」
なんか上手い事話を反らされた感が有るけど、一応面談してみるか。
「おらゴンタだ。 魔王退治行く」
ホントちょっと抜けて居るなぁ、大丈夫かこんなので……
「おら、がんばるべ」
本人は至ってヤル気はあるみたいだが、おつむの方がなぁ……
「解った、ゴンタ、一緒に来い」
「おら、ホントがんばるべ」
いざ連れて行ってみると、ゴンタは器用人だった。
力もそこそこあるし、野宿をする時も、そこら辺に落ちて居る木や石やらで、ちゃっちゃと寝床を作るし、料理も出来る。
ただちょっと頭が弱い……
頭は弱いが言う事は良く聴くし、可愛げもある。
俺はゴンタの事が好きになった。
あと、これは俺のことだが旅の途中で一度リングを使ってみた、魔王に会う前の予行演習ってヤツだ。
ビックリした。
軽く一撃の稲妻で、山が一つ消えた。
これなら魔王を倒せると確信した。
リリィのスナイパー精度も上って来ているし、結構な勢力になるだろう。
ゴンタは斧を二本同時に使う、二刀流と言うヤツだ。
サブは何も言う事がない、一撃のパンチで大きな岩も粉々だ。
なかなか最高のパーティーだ。
魔王の城まではまだまだあるが、それまでにまだ何匹か集まるだろう。
魔王を倒して俺はその城に住むつもりだ。
魔王の代わりに魔王に成っても良いと思ってる。
俺は贅沢三昧の生活を送りたいのだ……
待ってろよ魔王よ、俺がお前に成り替わってやるからな。
それまで待ってろよ。
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