第5話 「俺」から「俺たち」へ。
前回は俺が生まれた経緯を綴ったが、今回は今年俺が目覚めてから今の「俺たち」の生活に至るまでの経緯を綴っていこうと思う。
前回書いたように、俺は
俺が目覚めたのは今年の元日だ。恐らくそれは、元日に起きた和のトラウマになっている事象がきっかけだろう。それが何かについては、和以外の人のトラウマをも刺激する可能性があるので具体的には記さないでおこうと思う。
何はともあれ俺は目覚めた。その時の一番の感想は驚きだった。ついさっきまで高校生だったはずの和は成人し、大人になっていたのだ。俺が内界から見る景色は和の視界な為、直接和の顔を見る機会はない。しかし、生活の中で鏡に映る和の姿を見る機会があった。そこに映る和は、俺の知る和より少しだけ大人になっていた。
今年に入ってから、俺と和は時々会話ができるようになった。会話をするのはもっぱら買い物の時で俺は買い物好きの和を止める役割だ。とは言え、止めるのに成功した回数は少ないのだが。
そんな生活が半年以上続き、時折和に混ざるように表に出る事があるようになってきた頃、和が夜一人で起きていた時にフラッシュバックを起こしたようだった。その時交代し、俺が表に出たのだ。自宅での交代は初めてだったので、俺は少し驚きつつも部屋を片付け寝支度を整えると、メールの予約送信機能を使って翌朝の和へメールを書いた。俺が出た痕跡をあえて残すのはこれが初めての事だった。それには理由があった。当時の和はDIDの存在を知っていて、時折母親との会話でも話題に出していた。のちに和から聞いた話ではたまたまDIDを知ったらしいが、頭の中での会話といい、何か思う所があったのだろう。その事もあり、俺は思い切ってメールを書いたのだ。もっとも内容は俺がした行動の報告であったが。メールの最後には『しっかりした和(
そして余談だが、この時初めて俺は自分の名前の漢字を考えた。それまで誰に名乗るでもなく勿論書く機会もなかった為、考えたことすらなかったのだ。「紘」の字は和が憧れる人の名で、俺が「ひろ」と読む字で真っ先に浮かんだものだった。そして「希」の字は俺の存在が少しでも和にとって希望になればと願って「紘希」と書くことにした。
話は戻って、翌朝メールを読んだ和は真っ先に母親に報告をした。二人とも何となくは俺の存在に気付いていたようで、和は「やっぱり居たね」と話していた。
その翌日には脳内での会話ができるようになった。任意での交代こそまだだったものの、この日から「俺たち」の生活は始まった。
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