【The Miraculous Beginning 】

ベアトリスは教室に足を踏み入れると、胸が好奇心と不安でざわめいた。

想像以上に広く、荘厳でありながら優雅さも感じさせる空間だった。

教室は階段状に配置された四つの段に分かれており、中央には幅広い通路が三つの列を分けていた。左側の壁には高い窓が並び、陽の光が差し込み部屋を柔らかく照らしていた。右側には入口の扉と廊下が続いている。各段には九つの机が整然と並んでいたが、全ての席が埋まっているわけではなかった。


教室内には既に幾人かの生徒が座っており、それぞれ自分の作業に集中していた。机上の紙を熱心に読んでいる者もいれば、空席を探して歩き回っている者もいた。


ベアトリスは入口付近で足を止めたまま、どうすればよいのか分からず戸惑った。席を探すべきか、それとも誰かに尋ねるべきか。頭の中で考えが巡り、見知らぬ顔ぶれや静かなざわめきに圧倒されて動けなくなっていた。


「失礼いたしますわ。」


鋭い声が彼女の思考を引き戻した。

ベアトリスが振り返ると、鋭い目つきを持つ気品ある茶髪の少女が立っていた。

少女は一瞥でベアトリスを値踏みするように見つめたが、すぐに関心を失ったかのように目を逸らした。そして何事もなかったかのように、ベアトリスの横を通り過ぎた。


その少女は自信に満ちた動きで、静かに最上段から二段目の席へと進んだ。そこにはまだ誰も座っていなかった。机に置かれた紙に目を走らせ、一つの席を選んで座ると、優雅な手つきで制服を整え、持っていた扇子を広げた。

彼女の仕草には、自然と誇り高い気品が漂っていた。


ベアトリスはまだ入口付近に立ち尽くしていたが、机に置かれた紙に気づいた。それぞれの紙には名前が書かれており、どうやら座席が割り当てられているようだった。彼女は慎重な足取りで近くの列に向かい、自分の名前を探し始めた。


一列目の机はほぼ全て埋まっており、空席は二つだけだった。まずはそこから自分の名前を確認することにした。


近くの席に座っていた、がっしりとした体格の少年が彼女に気づいた。


「そこの紙、少し見せてもらってもいいですか?」

ベアトリスは緊張を押し隠し、優しい微笑みを浮かべながら少年に尋ねた。


少年は少し戸惑った様子だったが、肩をすくめて乾いた口調で答えた。

「どうぞ。」


ベアトリスが紙を確認している間、ふと誰かの視線を感じた。 上の列に座っていた先ほどの茶髪の少女がこちらを見ている。微かな興味を浮かべながら、ベアトリスの動きを追っているようだった。


ベアトリスはその視線に気づき、軽く微笑んでみせた。しかし、少女はその笑顔を無視するように顔をそらし、再び紙に目を落とした。


一列目に彼女の名前は見つからず、ベアトリスは二列目の席に進んだ。彼女は列全体を丁寧に歩きながら、左から右へと紙を確認していく。しかし、ここにも彼女の名前は見当たらなかった。


茶髪の少女の視線が追い続けているのを感じながら、ベアトリスは三列目の席へ向かった。彼女は冷静さを保ちながら、再び一枚ずつ紙を確認していたが、緊張のあまり足元がふらつき、バランスを崩しそうになった。彼女は一瞬動揺したものの、すぐに平静を取り戻し、再び少女を見つめた。


ベアトリスはもう一度書類を確認し始め、今度は左から順番に見ていった。先ほど茶髪の少女の隣の席に達したとき、軽くその方を見やり、

「失礼します」

と礼儀正しく声をかけてから、再び紙に目を落とした。

茶髪の少女は自分の紙に夢中なふりをしていたが、ベアトリスが進んでいくのをちらりと見ていた。


3列目でも結果は見つからず、次に進んだのは最上段の席だった。

そこには9席のうち6席だけが埋まっており、そのうちの一つは既に誰かが座っていた。

ベアトリスは冷静な表情を保ちながらも、最後の階段を登りながら、心の中で緊張と期待を感じていた。


残りの紙は五枚。ベアトリスは右側の二枚を確認したが、どちらも自分の名前は書かれていなかった。中央のセクションに、扇子を手に持ちながら優雅に座っている少女がいた。

彼女はまるで自分を涼ませるかのように、扇子を軽くあおいでいた。ベアトリスはその姿を講堂で見かけており、落ち着いた自信に満ちた姿が印象に残っていた。


ベアトリスが彼女の隣の紙を見ようと近づいたその時、突然、少女が低く整った声で話し始めた。その声には、間違いなく権威を感じさせる響きがあった。


「それは男の名前と書かれているのじゃ。そなたのものではあるまい。」


少女は扇子に夢中なふりをしていたが、ベアトリスが動くたびにその視線はしっかりと追っており、言葉の中には、落ち着いた好奇心が隠れているのが感じ取れた。


予想外の言葉にベアトリスは思わず動揺し、焦点を失った。彼女、私に言っているのか?ベアトリスは一瞬、その言葉に戸惑いながらも、少女の方へと顔を向けた。鋭い視線と冷静な口調が印象的だったが、彼女の言葉には悪意はなく、むしろ静かな楽しさがにじんでいた。


ベアトリスはすぐに気を取り直し、礼儀正しい笑顔を浮かべて答えた。


「ありがとうございます。」


その言葉に対し、少女は軽く頷きながら、穏やかに「ふむ。」と一声を漏らした。彼女の声には、少しの興味を隠しながらも、相変わらずの落ち着きと権威が漂っていた。


ベアトリスは最後の二枚の紙に目を向け、心臓が速く鼓動するのを感じた。それは単なる緊張ではなく、どこか奇妙なやり取りが心に残ったせいだった。


ベアトリスは次の紙に目を落とし、再び集中を取り戻した。そこには「ベル」と書かれていた。思わず息を呑み、しばらくその場で固まった。ベル?胸の中で小さな興奮が芽生え、それが瞬く間に明るく膨らんでいく。ベルが彼女の隣に座るのだ!


心臓が高鳴り、ベアトリスは最後の紙に目を向けた。確信が湧き上がり、彼女の頭の中はその思いでいっぱいになった—これが彼女の名前に違いない。そうに決まっている。


その紙に辿り着くと、目を見開いた。ベアトリス。


喜びが胸の中で湧き上がり、あまりにも溢れそうになったので、座らなければならなかった。自分の名前、ベルのすぐ隣に。まるで信じられない瞬間、予想もしなかった小さな奇跡が、初日から起こったかのようだった。


その瞬間、ベアトリスの顔に輝く笑顔が広がった。それは優しく、そして無防備な笑顔だった。彼女は穏やかに席に座り、胸の中で溢れる喜びを感じながら、心が満たされるのを感じた。ベルの隣に座るという考えだけで、今日一日がすでに特別なものに変わったような気がした。それは、彼女が望んでいた以上のものだった。


扇子の裏からその様子を見守っていた少女は、ほのかに微笑みを浮かべたものの、それを隠すように静かにしていた。下の列、前方に座る別の少女が、ベアトリスの幸せそうな表情に興味を引かれたように、ちらりと振り返った。

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