第8話 無頓着

BSの根城は意外と広かった。そして臭かった。

両側の柱は何処から持ってきたのか分からないが、立派な大木が2本ずつ計4本で、橋の下に丁度填まるように長さが揃えられていてこの家を支えていた。その大木をクロスするような形で流木が打ち付けてある。天井には、長い竹が何本もひしめき合うように敷き詰められ、更にその竹を藁で編んである。壁部分も同じような構造だ。それに周りをブルーシートで覆ってある。すきま風も少なく、家の中は意外と暖かい。

ただ、密閉性能が良いということは換気性能もそれなりに良くなければいけない。しかし、寒さを耐える為だけに作られたこの家は、換気性能に関しては全くの無頓着で作られていた。その為、臭いが籠ることこの上ない。排気ガス、川の畔の独特な臭い、色々な臭いが雑ざり何かが発酵したような何とも表現しにくい臭いが立ち込めている。そんな場所で干されている洗濯物は、それらの臭いを吸気し、また洗濯物それ自体の臭いと混濁し、異常な臭気を帯びてそこにあった。鼻栓をした事など無駄である。

BSは奥の自席にどかりと座り、底が焦げボコボコになった手鍋にペットボトルの水を入れ火にかけた。


コーヒーだが、飲むか。


ペットポトルには天然水のラベルが確認できたが、どうしようと飲む気にはなれない。私は首をふった。

BSは1人分のコーヒーを啜りながら少し落ち着いた様子で口を開いた。


で、あいつはまだスタンダップってバカなこと言ってんのか?


思いがけない言葉に呆気に取られた。


バカなこと?


バカなことじゃねぇか。全てを失って気でも狂っちまった奴の言うことさ。スタンダップ?ほんとに信じてんのか?俺のことはあれだろ?怪力とか何とか言ってんだろ?


その通りです。あなたの事は、簡単に言えばハルクって説明を受けました。私はてっきり、何か能力を発揮する時、ハルクのように変身するのかと思ってました。


ハルクってななんだ?ハルクホーガンか?変身なんてしねぇだろ。


いや、映画であるんですよ、そういうキャラクターが。アメリカン・コミックのキャラクターがいるんです。


ふ~ん...まぁ、別に興味ねぇけどよ、とりあえず俺は変身しねぇぞ。怪力って訳でもない。ま、あいつよりは腕力があることは確かだがな。怪力と言われる程の事はねぇよ。


...スタンダップ能力者ではないと?


ない。

ほんとに信じてるのか?そんなもんに希望見出だしてたら、ほんとに俺やあいつみてぇに全てを失っちまうぞ。望んでなるもんじゃねぇ。


それじゃあ、あの人がやってることは?何故あんなに堂々と信号無視して道路渡れるんですか?


...あんた、家族は?車運転した時あんだろ?人を轢いたらどうなる?


家族は居ますよ。人を轢いたら運転手の責任で思い刑罰が下されますね


だろ?家族にも迷惑かかる。

それならよ、横断歩道の信号無視は?


...注意です


だよな。だったらおめぇ、単純に考えて信号無視して渡った方が得だろ


え?いや、得とか損とかそういうのでなくて、単純に怖くないんですか?


何が怖い?


轢かれて死ぬかもしれないんですよ?


死んだらそれまで。怪我でもしてそれで慰謝料貰えりゃラッキーじゃねぇか!


死んだらどうするんです?


それで終わりよ。


何となく分かってきた。

つまりこのBSもピンクモーゼも、生に関して執着がないのだ。








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