幼なじみに対する感情には重すぎる!
ゆきの。
第0話 プロローグ
キーンコーンカーンコーン
15歳、中学生、最後のチャイムがなった。
3年間あまりにも聞き慣れすぎたチャイムはなぜだか、少しだけ、心に響く。
楽しいことも辛いこともあった3年間、寂しくないといえば嘘になる。しかし私はそれ以上に彼女、西条 羽澄(さいじょう はすみ)と同じ高校に通う嬉しさの方がずっと心に残っていた。
「んー、じゃまあこれで終わりますか。皆さん、高校でも中学で学んだことを生かし、より成長を遂げることを、先生は願っています。」
起立ー、気をつけー、礼ー。
さようなら。
これで、人生のひとつの区切りがつく。
ガヤガヤし始めたクラスでは、涙を流す人、卒業アルバムを回し始める人、先生に挨拶する人、みんな様々な行動をとっていた。
私は静かに羽澄の方へ駆け寄る。
さらさらとした黒髪を背中あたりまで伸ばし、キリッとした顔立ちなのにも関わらず、表情豊かで、柔らかさを感じさせる彼女の元へ。
きっとみんな口を揃えて言うはずだ、
『一目見た印象と全然違う』と。そしてこうも言うはずだ、『思ったよりアホっぽい』と。
「羽澄。ついに、卒業したね。」
「⋯」
「⋯⋯?はすみ?」
「うわーーーーん!卒業したくないよー!!ずっと玲依と中学生でいたいよー!!」
「な、!高校だって一緒じゃん⋯何言ってるの。」
「そーいうことじゃないのー!!うー、、」
そう彼女は少し、アホっぽい。そこが可愛らしさでもあるし、気に入っている。特に、笑う顔は。
私たちは産まれてから今までずっと一緒に生きてきた、所謂幼なじみってやつで、多分みんなが想像する幼なじみは
『今日暇だからうち来て』
『ういー、それよりこの間のラーメン屋の後マジでケツ死んだ』
『え、それな血ドバドバよ?』
『いやうける、誘ったのあんたやん』
『ケツ死ぬなんて思わんでしょ。そんなことより⋯』
と、たわいもない話をして、世界一の味方であり世界一の理解者であり、互いを良き方向に引っ張り、清く正しい関係。そんなふうに思うはずだ。
恋人ができた時には自身のように喜び、相談にのり………
むりなのだ⋯
私には絶っっったいに、むり
羽澄が恋人となんかした日には呪い○せるし、彼女と××だってしたいし××××だって、×××××だってしたい。
そう、幼なじみにしては重すぎる感情を抱いてしまっている、その自覚はありすぎる。
「うぅー⋯」
「どうしたの?玲依。」
「いや⋯なんでもないよ、たしかに少し、寂しかったりするねって思っただけ。」
「そか!やっばり玲依もそう感じてたんだ」
「まぁ、多少は─⋯」
でも、だからといって彼女に思いを伝える気は無いし、多分羽澄は私の事、なんとも思っていない。それは変えられない事実だから。
「そうだ玲依!海行こ海!歩いて10分だし」
「いいけど、なんで海、寒くない?」
「いーじゃーん!私卒業したら玲依と行きたいって思ってたんだよ!」
「今日じゃなきゃダメ?寒すぎるよ。」
「だーめ、行くの」
羽澄に絆されて渋々海へと向かうことになった。正門を通ると一段と寂しさが募った気がした。多分、羽澄も同じだったと思う。
今日はいつにも増して寒い日だった、マフラーに手袋にアウターまで身につけてもまだ寒かった。それなのに海なんて、気が知れない。
海に着くまでの道のりは特に目新しいものもなく、会話もそれほど交わしていない。彼女との沈黙はさして気まづくないし、どちらかと言えば心地がいい分類に入る。
「あー!やっばり風気持ちいいねー!」
「そんなことない。寒いだけ。」
「えー?うそー、玲依が寒がりなだけよ」
「ちがう。羽澄がおかしいだけ」
こんな生活が続けばいい。想いが叶わなくたって、したいことをしないまま我慢したって、こうやって2人でずっといられるなら、それでいい。
─⋯けれどもそうはいかないようだ。
「ねーえ、玲依。高校生になっても彼氏作って、色々したいねー」
「⋯え?」
「付き合って、デートして、キスも、その先も⋯ってなんか恥ずかしいね!でも玲依だって考えたことあるでしょ?」
⋯ないよ、そんなの⋯羽澄にしか、思ってない。
誰かとなんて、ましてや羽澄が誰かとなんて⋯
考えたこと無かった。羽澄は、私とは違う。知っていたのに考えないようにしてた。考えてしまったら多分、私はまともではいられなくなるから。
現に今、私は少しおかしくなってしまっている。
「⋯ないよ。そんなの。」
「え〜なにそれ、余計恥ずかしい。玲依、好きな人すらいなかったもんねぇ」
「なんで、考えるの」
「えぇ?なんでって⋯特別?なことだし?もう!玲依どうしたのよ、恥ずかしいじゃん」
本当に、おかしくなってしまったんだ。
ここで行動をおこせば、今までの関係が崩れてしまう。わかってる、そんなことは。羽澄に彼氏の1人や2人いたことだってある。でもその時は上手く抑えたじゃないか。
なのに、どうしてこうも心を荒らされるのだろう。特別なことをしたいと思っていたから?これからしようとしているから?
わからない。けれども、たしかに私は腸が煮えくり返る感覚に陥った。
「⋯キスなんて、⋯⋯とくべつじゃない。」
「え?玲依⋯?」
「とくべつじゃない。」
バザッと海砂が舞い起こる。羽澄の靴が汚れ、私の靴も汚れ、気がつけば私の前髪が彼女の前髪と触れ合うほど近づいていた。
寒く乾燥していた唇は、いつの間にか暖かくなっていく。
そして、元の距離に戻って、ジンジンと熱くなった唇がまた、冷え返っていくのを感じる。
「玲依⋯どうして」
「⋯⋯いやだったら、ごめん。」
答えにならない答えを言う。これ以上の勇気は私にはなかった。
冬だから、熱くて頭がやられたわけでも、蒸し蒸しして頭がクラクラした訳でもない。
けれども、
今日の寒すぎる温度と少しだけの寂しさは、
完全に私の頭を凍らせていた。
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