第7話「社内恋愛取締法」



「はぁ!?社内恋愛規定!?」


圭介の声が社長室に響き渡る。


「はい」

レオが真面目な顔で資料を差し出す。

「実は最近、人族とエルフ、ドワーフと精霊など、種族間での交際が増えているそうで...」


「それって問題なの?」


「いえ、ですが...」

レオが困ったように耳をぴくぴくさせる。

「小悪魔社員が魔力で告白を強制したり、精霊社員が相手を花園に閉じ込めたり...」


「それはアウトでしょ!」


「社長、この件は私が」

メリッサが一歩前に出る。

「徹底的に対応させていただきます」


「え?メリッサさんが?」


「はい。エルフには千年の恋愛経験が...」


「それ実体験!?」

圭介が思わずツッコむ。


「...社内規定の研究経験、という意味です」

メリッサが微かに頬を染める。


* * *


夜の社長室。二人きりでの規定作りが始まった。


「では、第一条」

メリッサが真剣な表情で読み上げる。

「種族間の恋愛は、互いの文化を尊重し...」


「ちょっと待って」

圭介が首を傾げる。

「その前に、そもそも社内恋愛をOKにするかどうかも決めないと」


「それは...」

メリッサが僅かに戸惑う。

「社長のお考えは?」


「うーん」

圭介は腕を組む。

「禁止するのは現実的じゃないよね。ただ、さっきみたいなトラブルは防がないと...」


「では、『正々堂々と』というのはどうでしょう」


「それだ!」


二人の視線が重なる。


「あ、その...」

圭介が慌てて視線をそらす。


「社長?」

メリッサも何故か落ち着かない様子。


その時、廊下から物音が。


「誰か来たみたい」

圭介が立ち上がる。


ドアを開けると...


「きゃっ!」

「うわっ!」


ドアの前で盗み聞きをしていた社員たちが、慌てて逃げ出す。


「あ、待って!」


「メリッサさん、あれって...」


「...取締役秘書のエマ、経理部主任のゴブ美、そして営業部のバルトス」

メリッサが正確に指摘。


「よく分かったね」


「だって逃げる姿が丸見えでしたから」

思わず吹き出すメリッサ。


「あはは」

圭介も釣られて笑う。


「...こほん」

我に返ったメリッサが姿勢を正す。

「では、第二条の検討を...」


「あ、うん...」


気まずい空気が流れる中、夜の規定作りは続いた。


翌日。


「社内恋愛規定、制定!」


全社朝礼での発表に、社員たちがざわめく。


第一条「社内恋愛は正々堂々と」

第二条「種族間の文化を尊重」

第三条「魔法による強制は禁止」

...


「意外とシンプル!」

「これなら守れそう!」

社員たちから前向きな声が。


「良かった」

圭介がほっと胸を撫で下ろす。


「社長」

後ろからメリッサの声。

「昨夜は、お疲れ様でした」


「あ、うん。メリッサさんこそ」


二人は何故か視線を合わせられない。


「むむ?」

レオが不思議そうに首を傾げる。

「なんか空気が変わってません?」


異世界の社内恋愛事情は、新たな展開を迎えようとしていた。

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