第10話 ラブソング
銀牙たちがクリスマスパーティーをしていたカラオケ店の店長が幼児化するパーティーグッズはクリスマスをさらに盛り上げるだろうと無料で配布していたらしいが、海外では合法のパーティーグッズでも日本では違法なので応援を呼んだ上で逮捕、他の店員たちにも事情を訊くために一時的に閉店の措置を取る事となったカラオケ店を後にした銀牙、
壁越しに失恋の歌がひそやかに聞こえて来た。
片方の個室からではなく、両隣の個室からである。
時々、すすり泣く声や、大泣きする声を聞こえてくる。
もしや失恋パーティーをしているのではないかと思われるくらい、両隣の個室から様々な声音の失恋の歌がひそやかに聞こえてくる。
気のせいか。
否。
気のせいではない。
真向かいに座る露衣がますます固まっていく様子を目の当たりにした銀牙。恋が成就した明るい歌を大爆音で歌っていた。
失恋の歌を掻き消すために。
恐らくパーティーグッズを誤って飲んで幼児化した上に熟睡中の冬和を起こすために。
明日、いや今日は休みだゆえに喉をどれだけ痛めつけてあまつさえ枯れ切っても構わない。
銀牙は歌って歌って歌って歌って歌いまくった。
その甲斐はあったのだろう。
銀牙が全身全霊で歌い始めて一時間後。
ソファに寝かせていた冬和が目を覚ましたのである。
上半身を起こして不機嫌な表情の顔を億劫げに動かしては、銀牙に視線を留めた。
銀牙は名前は分かるかなと優しく問いかけた。
冬和は銀牙の問いに応える事なくソファから下り、てくてくと迷いなく露衣の目の前まで歩くと、露衣に向かって満面の笑みで、しゃんたしゃんと呼びかけては、銀牙に顔を向けて、あのおじさん誰と問いかけたのであった。
(2025.6.16)
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