無限治癒の狂戦士~最狂一族の末息子に転生した俺、冷遇されている回復魔法を極めて世界最強へと至る~
WING/空埼 裕
第1章
第1話:転生
ぼんやりとした意識の中で、何かが目の前に迫ってくる――だが、それが何か、どうしてそんなことになっているのか、まるで理解できなかった。
「――アルド!」
突然、耳元で兄シグルドの声が響く。その声に引き戻されるように、意識が少しずつ鮮明になっていく。
それでも、頭の中は重く、視界はぼんやりとしていた。全身に鈍い痛みが走り、身体が震えているのがわかる。
「どうした、アルド……! しっかりしろ!」
その言葉に、ようやく全身の感覚が戻り、アルド・クレイヴンハートとしての自分が、やっと形をなしていく。
しかし、何かが違う――違和感がある。
その瞬間、目の前に浮かんだのは、暗い部屋の中で寝転がっている男の姿だった。
異常なほど冷静に、それが自分だと認識する。だが、その後、頭に激しい衝撃が走ると、再び目の前の景色が歪んで変わった。
――夢? 違う。これは……夢じゃない。
目を閉じると、目の前に広がるのは、見慣れたようで見慣れない光景だった。
剣と魔法の世界、そして戦うことが好きな家族が暮らすこの土地――クレイヴンハート辺境伯家の広大な領地が、まるで昨日のことのように鮮明に思い出される。
でも、それと同時に、ふと浮かぶのは、前の人生のことだった。
今、目の前にあるのは、確かに自分が知っている世界。しかし、何かが違う。まるで別の人生を生きてきたような感覚が、次々に頭の中に浮かんでくる。
あれは……俺がかつて生きた世界だ。
その記憶が、まるで水面に広がる波紋のように、次々と広がっていく。
それが、夢なのか、過去の記憶なのか、はっきりとはわからない。ただ、確かに覚えている。あの世界で、自分がどんな生き方をしてきたか――どんな痛みを感じ、どんな喜びを覚え、どんな結末を迎えたのか。
――すべての記憶が甦ってきていた。
「あれは……俺の前世だ」
あの世界で、俺は普通の人間だった。いや、普通とは言えないかもしれない。むしろ、その存在自体が普通ではなかった。
名前は思い出せないが、そこにはなんの意味もない。
地球での俺は、平凡なサラリーマンとして、無感動に、何の意義もなく過ぎていく日常に身を委ねていた。家族と呼べる人もいなければ、特別な夢も持たず、ただ仕事と酒に追われて生きていた。
正直、日々が面倒で、無理して生きているような気がしていた。仕事に疲れ、思い通りにいかない自分にイライラし、休む間もなく仕事に追われていた。どんなに頑張っても、成果が上がらない日々が続き、何のために生きているのか分からなくなったこともあった。
だが、ある日、思いもよらない事故に巻き込まれて死んだ。
何の前触れもなく、突然車に轢かれ、目の前が真っ暗になった瞬間、俺はその世界から退場したのだ。
最期の瞬間、何も感じなかった。そのまま意識を失い、そして目を覚ましたら――ここに、クレイヴンハート辺境伯家の末息子、アルドとして生を受けていた。
剣と魔法が支配する異世界で、全く違う人生を歩んでいる。
身体は元気そのもので、何もかもが新鮮だ。だが、この新しい人生には、まるで自分の記憶の中の『前世』が存在していた。
その瞬間、俺の中で確信が生まれる。この世界で再び生きることを選んだのは、きっと無意識のうちに決めていたからだろう。
だが、前世の自分は、どんな人生を歩んでいたのだろう?
もう一度、その記憶を遡ってみると、確かに、あの地球での生活はつまらないものだったが、何もかもが無駄だったわけではない。いくつかの小さな幸せや、大きな後悔もあった。
心の中で「もっとこうしていれば」と悔いることはあったし、やり直せるならやり直したいと思うこともあった。
でも、結局のところ、俺の一番の後悔は――何かに本気で挑戦しなかったことだった。
前世の俺は、挑戦することを避け、逃げてばかりだった。人間関係も仕事も、深く関わらず、結局何かを成し遂げることなく、人生を終わらせてしまった。
それが、ここに来て気づいたことだ。
――俺は、何かに全力で挑むことができなかったから、死んでしまったんだと。
その思いが強くなった瞬間、再び記憶の中に現れる。
前世での「無駄な生き方」が、今の自分にとっては大きな教訓になった。ここで生きるなら、もっと挑戦し、何かを成し遂げなければならない。
――いや、違う。
その答えは、単純明快。
戦っている時に全身を駆け巡る感覚――この高揚感こそが、俺の求めていたもの。
前世のつまらない日常では気づけなかったけれど、この戦闘狂一族の血が証明している。
「そうか……俺は、戦うことが好きなんだ」
その自覚が、胸の中にすとんと落ちた。
前世では何かに全力を注ぐこともなく、無感動に日々を過ごしていた俺が、今ここにいる理由。それは、この世界が俺にとって、生きるための本能に満ちた場所だからだ。
――今度こそ後悔しないように生きてやる。
戦いを、闘争を楽しみながら、力を磨き、この世界で俺の命を最大限に輝かせてみせよう。
その決意を胸に抱き、改めて周囲を見渡す。目の前には、シグルドが心配そうに俺を見つめている。
「アルド、本当に大丈夫か? お前が倒れるなんて、珍しいな」
「大丈夫だよ、シグルド兄さん」
俺は口元に笑みを浮かべた。
「次はもっとやれる。俺は戦うのが好きだから!」
「ははっ、お前もらしくなってきたな。ほらかかってこい。まだまだ訓練は続けるぞ!」
挑発的な笑みを浮かべる兄に、俺は剣を手に駆け出した。
その後、体力も尽きてボロボロになった俺は訓練場に横たわり、茜色の空を見上げるのだった。
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20時、22時に更新予定です。
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