最低最悪の独裁者、最高峰の勇者として異世界で活躍する

【垢バン大復活】ブラックナイト田村二世

勇者による恐怖政治

プロローグ 独裁者の終焉

 偉大な祖国、ソリア神聖共和国は反体制派によって制圧され、俺が築き上げた努力と情熱の結晶は突如として崩壊した。

 2024年の12月4日。

 ソリアの総統大臣の俺――――ベッシャ―ル・エル=エサドこと通称エサドはいつもの日常とは違い、慌ただしく執務室を動き回っていた。

 持ち運べそうなサイズの家具を外へ運び出し、金庫に収めていた金塊やダイヤモンドを出来る限りボストンバッグへと流し込み、もしもの時に備えてソ連製のピストルであるマカロフをジャケットの内ポケットに忍ばせる。

 外からは、反体制派による空爆と味方の兵の抵抗する音が響く。

 長々と説明している暇はないが、簡潔に言うと、俺の国は崩壊しかけている。いや、エサド政権俺の宝物が壊れる、といった方が正解だ。

 どうも俺の運営する政権は民衆には不満だったようで、各地で反体制派が次々に誕生した。誕生当初は反体制派によく追い詰められていたが、ラッシア連邦やレベノンで活動するイスラム教シーア派武装組織「ヒゼボラ」から軍事支援を受けられるようになったため、近頃は俺の方が有利だった。

 しかしラッシア連邦もヒゼボラもそれぞれ特定の国家と争っているので、支援能力が低下し、それが要因となって一気に反体制派がここまで押し寄せて来たのだ。

 親父の代から続いた政権が潰されるのは悲しい腹が立つが、今はそんな復讐の念を抱いている時ではない。

 とにかく、とにかく、命を守らなければ。


 ◇


 護衛の特殊部隊兵に護衛されながら最寄りの空軍基地に到着。それにしても、反体制派の武力は凄まじいな。装甲車じゃなくて主力戦車に搭乗して正解だったな。

 眼前には、エンジン音を木霊させながら俺を待ち続ける自家用ジェット機がある。

 ジェット機なんて久々だなと思わず眺めていると、


 「大臣! 何を突っ立っているんですか! 死にますよ!」

 「おお、悪い悪い」


 特殊部隊の副隊長から警告を受けながら、腕をがっちりと掴まれて強制的に飛行機へ歩かされた。

 ジェット機に搭乗し、手前の座席に座る。後部の座席は家族や高官、特殊部隊員らでぎっしりだ。こんなに仲間が居ると、ちょっとは安心だ。

 エンジン音が最大の唸り声を上げて、徐々に滑走路から舞っていく。

 数分も経たない内に、飛行機は離陸。地面との距離はかなり空いてしまった。既に高度数百メートルはあるだろう。

 窓の下には、官邸の建つ首都が至る箇所から煙を上げ、伝統的な建築物を崩壊させ、寂しそうに佇んでいる。


 「反体制派め……俺の故郷のダマスアスを滅茶苦茶にしやがって……でも、覚悟しておけよ。ラッシアに行ったら、核ミサイルを撃ってやる……!」


 憤慨の心情を覚えながら、首都を睨み付けて怒りの言葉を呟く。


 「ん、何だあれは?」


 突然、黒煙が視界に紛れ込んだ。その煙は相当距離が近いように見えるが……。

 そう思った矢先、操縦室から焦った様子のパイロットが飛び出して来た。


 「大変だ! エンジンにトラブルが発生しました! このままではもう……!」


 最後の言葉を言い切ろうとした時、黒煙が噴き出ているエンジンから爆発音が鳴ったかと思えば、今度は真っ赤な炎が出現。同時にエンジンが付けられている右翼の一部が破損した。


 「ぐううぅぅぅぅぅううう! 制御不能だ!」


 扉が開いたままの操縦室からは操縦桿を必死に握って飛行機の体勢を保とうと試みるパイロットの苦言。

 右翼はどんどん折れていき、その分炎の勢いは増す。

 ……そういえば、この飛行機は4年前に使ってからそのままだったな。ほぼ使わないという事で、整備もあまりやっていなかった。

 その報いが、こんな形になって返って来るとは。

 本当に、政権が崩壊したり、エンジントラブルに見舞われたり、俺の人生はまるで映画の如く派手だ。

 飛行機は機首から激しく岩肌の地面に衝突し、核が落ちたのではないかと思う程の大爆発が巻き起こった。

 一瞬過ぎて痛覚は皆無だったが、即死したという事だけは理解できた。


 ◇


 ……と、思っていたが、

 「勇者様よ! 我が王国に救いの手を!」

 生きているかどうかは不明だが、俺はどこかの宮殿のような、華やかで厳かな場所に居た。身は何かしらの光に包まれており、目を開けるのがやっとだ。

 そして、目の前には金髪の白いローブを纏った女の子が何やら様々な言葉を本片手に必死に読み上げていた。

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