第103話 はじめての船旅【アールノッテ国編】
旅先のお楽しみといえば!!やっぱりご当地ご飯である。
バタービーちゃんを観察したりバターシードちゃんを観察したり、時々『ちょっと通りますぅ〜』しながら横切る浜辺の生き物を追いかけてみたり……気がつけば夕日が沈み、夕食の時間になっていたので蟹推しと城に戻る。
ご飯用の服に着替えて、改めて父上と一緒に向かった食堂は、まるで講堂のごとく広々である。
俺と父上は、蟹推しが座っている教壇席?のような一番奥にある一段上の席に案内される。中央にはスペースがあり、それを挟んで左右にズラリとテーブルが向かい合わせに並び、貴族達が着席している。
全員が席につき、蟹推しが『お食事がはじまるよぉ〜』の合図をすると中央のスペースにワゴンにのった山盛りの蟹が運ばれてきた。
とってもでっかい蟹である。
想像の⒈6倍は大きな蟹であった。
これはすごいね……。
蟹おじがいつも持ってくる蟹の3倍は立派である。
本当に甲羅は俺の顔サイズはある。
いったい、どんなお味が……ごくん。
期待に、生唾が溢れてくる。
運ばれてくる中でも一番大きな先頭の蟹を給仕さんは、サクサクと捌いてお皿に切り分け、俺達の方にもってきてくれる。
目の前に、蟹がどどぉーん!である。お皿には、蟹がオンリーワンであるがその存在感で目が離せない。
勿論ソースポットはテーブルに最初から用意されていて、蟹味噌、バタービー、蟹ソースと、好きなだけかけなさい〜されている。
「これは生であるが、抵抗があるようなら軽く湯通しするのも良い……メリッサ卿、いかがする?」
「せっかくなので生でいただきます」
「後ほど、茹でたものと焼いたものも出てくるが、魚や肉に変えた方がよければそのようにさせる」
「いえ、私もロウヴィルとお同じもので」
「わかった」
父上も蟹は好きだからね!メリッサ家でも蟹は夕食に出てくるし、蟹推しソース・マスタードバタービーも常備品である。
生蟹で前菜!焼き蟹で主食!茹で蟹はデザート!な蟹蟹尽くしのコース料理なんて、期待しかない!!
では早速新鮮なうちに……。
手を伸ばそうとしたら父上の強い圧に気付き、手を引いた。
場の偉い人より先に手をつけるのはマナー違反だったね……?
そわそわする俺に促されて、蟹推しが蟹を手に取り、つるるっと蟹身を引き出し、ごっくん!する!
はうぅ!プリプリの蟹身ですねぇ!!
蟹推しのお口の中の弾力すら想像できるご立派な蟹身である。
「さぁ、みなも食すと良い」
間違いなく俺のターン!な合図をされて、心置きなくいただくことにした。
フォークで……いや、蟹推しは手だったし、ここは本場作法に倣おう!!
まずは、この太い蟹身を……。
持ち上げれば、思ったより冷たい。
はむっ。
お口に、ぱくっ、つぅーとひっぱる。
の、の、濃厚!!
あまぁ〜い!!
蟹身がしっかりしており、噛みごたえ抜群、そして、まったく水っぽさがない。濃縮150パーセント蟹味である。
旨味成分の限界を超えた蟹味がお口を支配する。
ほっぺが落ちるぅ〜!!
もきゅもきゅはむはむ。
しっかり味わい、次の脚に手をかけ、次は蟹味噌さんをつけてはむっ!する!!
「!!」
ふぁ〜ファビュラス!!
マリッジぃぃ〜!!
無限にお食べぇ〜できちゃうよ!!
茹で蟹さんもやってきた。
熱々の蟹さんにはバタービーちゃんのソースで……。
「!!」
お口の中が幸せぇええええ!!
遠路はるばる海を越えて、俺はこのために来たのだ!!
蟹推しの国でしか味わえない!地産地消の現地で味わう美味しいもの!!がこの晩餐には詰め込まれている。
蟹ぃ〜!!バタービー!!マスタァ〜ド!!
はむはむはむはむ。
黙々とバタービーソースディップ蟹!を食べ続ける。
「ふふ、ロウちゃん、蟹を気に入ったのだな」
「大陸一美味しい蟹です!!ロウちゃんは今、幸せぇぇ〜です!」
「そうか、そうか、たしかに美味しいものを食べると幸せな気持ちになるな」
蟹推しは目を細めながら、同意!に頷く。
こうして美味しく楽しい夕食は、続いていく。
で、まぁ、当然だけど、美味しいものは、つい食べすぎちゃうよね?
明らかに、ぷっくりとお腹が出てしまった俺は、部屋に戻る前に、お食事後の軽い運動をすることにした。
と言う訳でロウちゃん11才!人様の薬草畑(夜バージョン)にリターン!!
勿論、本命は『メリクリ草』の夜の様子を観察しよう!である。
覚えているだろうかトリィ君は、収穫は月夜に行うと言っていた。
正確には4日後と言っていた。
なので、今日は収穫の日ではないが、収穫が近いメリクリ草さんは、収穫前の準備なるものが行われている可能性もある。
それをこっそり観察しようと思う。
「ふぁぁあああ〜これは綺麗ですぅ」
そして、じっくり観察するまでもなく、メリクリ草は昼よるもさらに銀色にキラキラと光り輝いていた。
葉っぱのトゲトゲの部分が特にキラキラしている。
昼間に見た時も父上みたいで美しい色だね!と思っていたが、夜はさらにその輝きを増しているようだ。
俺はしゃがんで早速、拡大鏡でじっくりとそれを観察する。
ほうほう、このトゲトゲの先端部分には銀の棘がついているんですね。
ん?これ、でも昼間もあった?
結構な大きさなので見逃すはずはないと思うのだが……。
葉っぱの裏側もちょっとごめんねして下から覗き込む。
ふむ、こっちは同じ?
「ロウちゃん?」
「?」
呼ばれた気がして振り返ると、昼間と同じでトリィ君が立っていた。
「やっぱり、ロウちゃん?どうしたの?こんな時間に」
「メリクリ草さんに会いに来ました!」
「……収穫は4日後だよ?」
「月夜に収穫するという事は、夜の間に効能が高まる?あるいは活動が活発化するという事が考えられます!だから何か違いがないか見ていました!」
「そう……ロウちゃんは、調合が好きと聞いたけど、薬草観察も大好きなんだね」
「大好きです!」
トリィ君は、なんだかちょっと複雑な微笑みになる。
「??」
「私の師匠も薬草の観察が大好きな人で、大雨が降った時や大雪がふった時には、薬草がどうなっているのか観察してくる!!って飛び出していって、ずっと薬草畑にいて風邪ひいちゃうくらい夢中になっていたよ」
「ほうほう!」
トリィ君の師匠さんと俺はきっと良き友達になれただろう!!大雪の中の薬草観察なんて、とっても楽しそうである。
チラリとバーク兄様の顔が浮かぶ。
まぁ、風邪ひいた時はお薬があるしね?
トリィ君は俺のそばにやってきて、しゃがむとメリクリ草を見つめる。
「『メリクリ草』は種がなるまでに3年かかるんだよ……この隣の列の『メリクリ草』は種用に育てているもので、3年前に私と師匠が一緒に植えたものなんだ」
「……他のメリクリ草さんよりも小さい?です?」
むしろ植えたばかりなのかな?と思っていたが、どうやらメリクリ草は、年々小さくなる傾向があるようだ。
「メリクリ草は毎年小さく小さくなっていって、葉っぱの数も少なくなって、最後に全部葉っぱがおちて真ん中にぷくっと鈴みたいな膨らみができるんだよ、それが種なんだ」
「なるほどです!!」
俺はすぐに隣の列のメリクリ草さんを観察する。
たしかに、どれも葉っぱの数が少ない。
「パンパンになって先端がちょっと割れたら種ができたよ!という合図でね……膨らみが割れる時に、甲高い鐘のような音が微かにするんだって……夜明けの時に、太陽の光を浴びて乾燥して表皮が割れるから深夜から明け方にかけてのタイミングなんだけど……収穫の時にはその不思議な音を一緒に聞こうって……とても楽しみにしていたんだ」
「……」
トリィ君は、小さなメリクリ草を見ると、くしゃりと顔を歪めた。
トリィ君の師匠は……帰ってこないのだと蟹推しが言っていた。
メリクリ草さんが種をつけて、その時を迎えても、約束は果たされることはないのだ。
トリィ君の目には、感情が溢れ、そして、耐えきれなくなり、顔を伏せ、両手で顔を覆った。
メリクリ草は、トリィ君にとって特別な薬草なのだ。師匠とトリィ君との大事な思い出の薬草なのだ。
だから、こんなにもこの畑は、しっかりと大事に守られているのだろう。
「私には……もう、わからないよ……」
「?」
トリィ君が力なく息を吐きながら、微かに漏らした言葉は闇に溶けた。
冷たい風が微かに吹いてきて、メリクリ草が揺れる。
「薬師になりたいのかすら……もうわからないんだ……」
「……トリィ君は薬草が嫌いなんです??」
この手間暇かかる薬草畑をせっせとお世話してきたトリィ君が……薬草さんを嫌いになんかならないよね??
「……私は……師匠と一緒がよかったんだ……師匠と一緒に、薬草畑をみて……薬をつくる……そういう薬師になりたかったんだ……」
「……」
トリィ君は途切れ途切れに……ありし日の事を思い出しているようだった。
華おじいちゃんの顔が過ぎる。
一緒に、薬草図鑑をみたり、レポートを読んだり……薬草調合したり……そんな毎日が俺も楽しかった。
トリィ君の師匠はいない……もう一緒に薬草を見る。そんな日すら来ないのだ。
「師匠が帰ってくるんじゃないかって……ずっとそう思っていて……でも、他国から薬師を招いて……わかったんだ……もうそんな日は来ないんだって……」
「……」
薬師は……師弟制度を是とする。
師匠の許可がなければ薬師試験を受けることはできず『薬師』になることはできない。
トリィ君が薬師になるには、師匠を持たねばならない……。
だけど、トリィ君が夢見た『薬師』のあり方は、尊敬する師匠の弟子として薬師になることで、薬師になった後も一緒の派閥で仲良く薬草観察したり、薬草栽培したり、そういう日常を描いていた。
きっと、トリィ君の師匠は、トリィ君に『薬師』のあり方ではなく、薬草を身近にして生きる楽しさを沢山教えたのだ。
「薬師は薬草さんあってのお仕事です……栽培する人も、薬草観察して新しい発見をする人も、調合する人も……みんな信念は一緒です。『薬草さんをお薬にして、困っている人に届けたい!』そういう人が薬師になるんですよ?」
「……」
トリィ君は顔をあげた。目を丸っとしていた。
薬草さんはそれだけでは効能が小さく、人を救えないただの草である。薬師が手を差し伸べて、お薬になって初めて人を救うことができる。
薬草は困っている人のためにあるものだ。
薬師もたまに困っている人のためにあるのだ。
トリィ君は、じっと俺をみた。
「……困っている人に…………」
トリィ君はぎゅっと奥歯を噛んだ。
「困っている人がいて、薬草があったら、迷わず調合します!それが薬師です!」
「!!」
トリィ君の師匠さんが、どういう最期を迎えたかはわからないけれど……きっとお薬を作っていただろう。
それが、トリィ君の国に届かないとわかっていても……それで救われる命があるのならば、薬草調合をしただろう。
人の命を救うのは、あくまでも『薬草』であり『薬師』ではない。そして、薬草には国の事も人の違いすらもわからない。等しく同じ効能を持って、等しく人を救う……それが薬草ならば、その薬草を使う薬師が患者を差別するなどあってはならない。
俺たち薬師は、薬草のお手伝いをするポジションにすぎないのだ。
薬師はみな、同じ思いでつながっている。
すこしでも世界に薬草が増えるように、少しでもお薬で困る人が減るように、そう願うのだ。
「誰が師匠でも、思いは繋いでいけます。ロウちゃんは沢山の薬師さんと出会いました、栽培上手な薬師さん、未知なお薬に挑む薬師さん、出会った薬師さん達の思いは、ロウちゃんの中で教えられた知識とともにちゃんと生きています」
「……思いは繋げる……」
トリィ君はぎゅっと胸のあたりに拳を握る。
薬師達は先人達に敬意を払う。それは、薬草学の全てが先人達の努力と信念の積み重ねの学問だからだ。
薬草学を知ることは、先人達の知恵をかりること、先人達の思いを繋ぐことだ。
「ロウちゃんもいつか後進の子達にSUGEE!!してもらえる薬師になりたいです!そのためにはまだまだ沢山薬草さんを見たり、触ったり、調合したり、先人達のお知恵をふむふむしたり……色々なものが足りていないけれど……いつか、お弟子さんができたら、ロウちゃんが見てきたことや薬師さんに教えてもらったことを沢山教えてあげたいと思います!」
「…………ロウちゃん……」
トリィ君はじっと俺を見て、やがて、ゆっくりと立ち上がった。
「私も……今はできないことばかりで……知らないことばかりで、師匠のようにはいかないけれど……沢山学んで師匠に誇れるような薬師になりたい」
トリィ君は少しはにかんだ笑みをみせた。
薄雲が取れて月明かりが一層眩しく照らす。
メリクリ草が一層キラキラと輝き出した。
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