第4話 校則違反は先生には適応されません。
朝になっても母親は戻ってこなかった。飲んで潰れると帰ってこないのは日常茶飯事で、きっと今頃店のソファーで寝落ちしてるのだろう。
仕方なく一人で高校に向かい教務室で先生に退学の意思を伝えているのだが……
「ふむ、残念ながら保護者の同伴なしで退学の申し出など到底認められないな」
そういって、彼女は椅子の背もたれに体重を乗せて、黒いストッキングで包まれている煽情的な細い足を組んだ。腰まで伸びた銀髪、眉毛まできっちり染めている。
鷲沢成美、士狼の担任教師。
色白の首からは、クロムハーツのネックレスがぶら下がっていた。
「……先生」
「なんだ、不良少年よ」
「いや……俺らの高校って髪染めOKだったけ?」
成美が士狼の金髪を眺めて、ふっと笑う。
「つまり、我々は同士ということだな。一緒に
「あんたがそっち側なんだよ。よく教員免許取れたな」
「髪を染めている教師なんて今時珍しくない。考えてみろ、白髪染めだって同じだろ? 髪の色で良し悪しを決めるのは差別的だ」
「じゃあ、その全身のシルバーアクセサリーはどう説明するんだ?」
「つまらないことを気にするな。
「……意外と教師してるんだな」
「あたりまえだろう。君のようなイケメンは貴重だ。わが校10年に1度の逸材。卒業まで彼女を作らずに私の目の届く範囲にいてくれると助かる」
ああ、だめだコイツ。と士狼は本気で思った。
すると、成美が腰にぶら下げているウォレットチェーンをガチャガチャといじり、留め具の片方を士狼のズボンのベルトループに引っ掛けた。完全にヤバイ女の行動だった。
「なんのつもりだ?」
「可愛い教え子から、君がもしきたら引き留めるように頼まれているんだ。メールも送ったし、そろそろくる頃合いだろう」
「ま、まさか」
勢いよく教務室のドアがスライドする。
黒髪で整った容姿。絶対に会いたくないと思っていた女、白鶴日和がいた。
「氷室君!」
「し、しつこすぎる!」
「本当に退学しようなんて信じられません!」
怒ってますと日和は両拳をにぎりしめるが、まるで威圧さを感じさせないひょうきんな仕草にむしろ嫌気が差してくる。
クラス全員で卒業することが学級委員長の責務とかいってが、絶対に認識を間違えている。誰だ、コイツにこんなことを吹き込んだ奴は。
「成美先生、氷室君を引き留めてくれてありがとうございます!」
「いいんだよ。その代わり、不登校の生徒を引きずり出すのも学級委員長の務めだぞ、いいか? 絶対に私のクラスから退学者をだすなよ?」
「はい!」
犯人は目の前にいた。
士狼は成美を睨みつけるが、彼女は子供っぽい笑みを浮かべて「あとは若人たちでよろしく」と捨て台詞を残して立ち去ってしまった。
「氷室君、退学なんて考えなおしましょうよ」
「……あのなあ、しつけーんだよ。ハッキリ言って迷惑なんだ。一緒にいるとイライラする」
「……で、でもわたしは氷室君のことを想って」
「それが迷惑だっつってんの。学校に通うだけが正しいなんて、価値観の押し付けじゃねーか」
「だって……真面目に生きるって言ったじゃん」
「中卒は全員不真面目だって、そう言ってんのか?」
「……うっ、そういう意味じゃ……ないけど」
「じゃあどういう意味だよ、言ってみろや」
こいつは勘違いしている。
一般論として高校くらいは出た方が良いという意見は理解してる。
だけど、前の人生で死んだのは29歳だ。今更高校生に囲まれて真面目に授業なんざ想像しただけでゾッとする。学費だって
なにより……これ以上、日和とは関わりたくないんだと士狼は強く感じていた。
「もういいだろ。お前が悪い奴じゃねーのは分かってるから構わないでくれ」
「で、でもぉ」
ぐすんぐすん、日和の瞳に涙がたまる。
「お、おい泣くなって」
「な、泣いてま……せん。ぐすん」
「泣きながらいうなよな」
はあ、と士狼は深くため息を吐きハンカチを差し出す。
「ごめんなさい。確かに言い過ぎました反省します」
「……」
「なら……せめて、氷室君がやめたい理由を教えてください。それできっと納得できますから」
「はあ、わかったよ。でも、こんな場所でいうことじゃねえから、場所を移そう」
◇
誰も近寄らない高校の屋上で、士狼はありのままの想いを伝える。
青い空、高校の屋上、男女がそれぞれの想いを告げて別れる。映画でいえば最高にセンチメンタルでエモーショナルな一幕。
自分を諦めて貰うためにたっぷりと感情を含めて家庭事情を説明する。
(ここまで言えばこのお節介女も理解してくれんだろ)
しかし、日和のリアクションは士狼の遥か斜め上をいくものだった。
「よく頑張った、感動した!」
「え」
「士狼君、君はなんて家族想いな人なんです! つまり、将来立派になって母親を楽させたいと。なら、なおさら進学を視野にいれべきでしょう。子供が家計を心配して学校を辞めるなんて言われたお母様の気持ちを考えたことがおありですか。まさに、親の心子知らずっ!」
「は、はあ!?」
さっきまで泣いていたくせに、日和がばしん、ばしんと背中を叩いてくる。しかも、名前呼びになってる。
「安心してください。この学級委員長・白鶴日和に万時お任せあれ。放課後、お母様を交えて三者面談を行いましょう」
(う、うっぜえええええええええええ!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます