第43話 このヒロイン3人の女子会とかマシュの話題何話すんだろうね

 それから。

 タイやワフウ姫もお見舞いに来てくれて。魔法協会のお偉いさんも来てくれて。

 しばらくの入院と、リハビリ生活が始まった。


「まだ何も、進んではいませんわ」

「なるほどなあ」


 シャル達から、マシュが気絶した後のことを聞いた。ドラゴンが全面降伏し、沙汰を持っていること。その待ち合わせが毎月の満月の翌朝であること。


「魔導連盟も魔術会議も、表立って活動しているという情報は無いわ。まあ魔導連盟は頼みの主戦力である竜騎士ドラゴンライダーが全員廃業したからね。何をするにしても、しばらくは出てこないでしょ」

「そうなんや。あのハゲぶちのめすだけでこうまで組織が崩れるんか」

「あのハゲというより、あのハゲのドラゴンだったグレゴリオよ。あいつが竜の王だったから」

「なるほどなあーん」

「はい、あーん」


 ヨージョの話を聞きながら、シャルの『あーん』で食事を摂るマシュ。


「ちょっとシャル。あたしにもやらせなさいよ」

「良いですわよ。はい」

「あんなあ。俺で遊ぶなや」

「うるさいわね。ねじ込んでやるから口開けなさい」

「怖すぎやろ」


 腕が、まだ動かない。

 感覚はあるのだが。


「……そこも酷かったわよ。骨折に火傷に。その上無理矢理縛って、短時間の初級治癒魔法だけ掛けて。それでドラゴンと戦って、その後ハゲと戦ったのよ。後遺症は覚悟しときなさい」

「そうなんか。……まあ、ええよ。皆生きとるしな。それだけで」

「マシュさぁん。わたくしも、マシュさんが生きてくださっただけで……」

「ほいほい」


 感極まったシャルがマシュに抱き着いた。

 心なしか、以前よりスキンシップが多い気がする。

 マシュは少し照れてしまう。


「……禁術はどないなったんや?」


 マシュはあの時、分解された召喚魔法と使役魔法を感じ取っている。いつもとは違う感覚があった。同じ世界から特定の人物を召喚するのは、ずっと聞いていた禁術としての召喚魔法とは違ったからだ。


「…………はい。複合魔法としての禁術『召喚魔法』は失われましたの。わたくしが、破壊しましたわ。ですので、純粋な『召喚魔法』、『洗脳魔法』『使役魔法』の3つがそれぞれ単体の魔法として、わたくしの中に」

「それは、どないなるんや」

「『純召喚魔法』は、わたくしが座標を把握している物体を手元に呼び寄せることができますわ。質量によって消費魔力が違いますの。意思ある生物の場合、本人の意思に反していると消費される魔力は膨大に。合意なら少なく済むようで」

「ほぉん」

「また、『異界』からの召喚もやろうと思えばできるようですが。今度は本当に何が召喚されるか全く分からず、しかも洗脳が無いので非常に危険なのですわ」

「ああ。キャラだけやなしにアイテムまで入った闇鍋ガチャか」

「『洗脳魔法』は、わたくしの手の届く範囲の意思ある生物に掛けることができますわ。けれど、これも拒絶されると魔力が多く消費されますの」

「ほむ」

「『使役魔法』は、洗脳魔法に掛かった生物にしか効きませんわ。後はこれまで通り」


 単体では今一、扱いづらい魔法である。それらを複合させて国を発展してきた歴代の王族達は凄いのだろう。


「全て終わった後。わたくしは本部で拘留されることになっていますの」

「なんでや?」

「まず、サーモン王国にて必要な手続き無しに『禁術』を使用したこと。そして、『禁術』を破壊したこと。どちらも重い罪ですわ」

「…………しゃあなかったやん」


 ヨージョを見る。彼女も眉尻が下がっていた。


「そうよ。だから、情状酌量の余地は充分にある。拘留と言っても何年も拘束しないわ。そもそも名目上なだけなのよ。実態は、時間を掛けてシャルの身体検査をするだけに近い。禁術が失われたのは世界の損失だけど、今回はあんたが召喚されたことも含めて、実被害は無いからね」

「…………被召喚者は世界を変えるってアレか。俺何もやってへんし、何もできへんただの高校生やからなあ」

「何言ってんのよ。変えてるわよ」

「おん?」

「あんたは竜騎士ドラゴンライダーの元締めを倒して、魔導連盟を大きく弱体化させた。ドラゴンによる被害も無くした。世界を救ったと同義ね」

「………………実感ないなあ」


 マシュとしては。ムカついた奴を殴っただけである。

 まだ動かない、右手に感覚を集中する。


「…………俺、人を殺してもうたんやな」

「マシュさん……」


 ――「『何故人を殺してはいけないか』?」――


 あの日。召喚される日。

 直前に話していた、友人加藤シメサバの言葉を思い出す。


「(遺族が悲しむ。自分も殺されるかもと安心できへん。禁止しないとどんどん殺す。あとなんやったっけ。……労働力の減少か。国家の損失)」


 今回の場合。

 シメサバが話した全てに、当て嵌まっていない。ドレイクに家族は居らず、ドレイクとは同じ共同体ではない。つまり、シメサバ的には『問題ない殺人』と言える。

 寧ろ、ここで殺さないと今後もドレイクによる被害者が増え続けることになっていただろう。

 間接的に、マシュは多くの命を救っている。


「…………わたくしですわ」

「え?」


 シャルが。

 マシュの手に、自身の手を重ねて添えた。


「わたくしの魔法ですわよ。あの、既にボロボロだったマシュさんが、あの威力の攻撃をできたのは」

「いや、そうやけど……。実際に手を下したんは俺や」

「わたくしですわ」

「…………一緒に背負ってくれるんか」

「勿論」

「…………」


 ハクが。

 気を利かして。

 ヨージョの手を引いて退室した。


「…………実は、禁術を壊した時に。マシュさんへの洗脳も解けているのですわ。最後の戦いの時は、使役魔法を掛ける為に短時間の洗脳をしただけですの」

「…………そうなん、や」

「はい」

「…………」

「マシュさん。好きです。愛していますわ。叶うなら、ずっとお側に……」

「…………ああ。俺もや」


 別れの時は、少しずつ近付いている。

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