無能なおっさんタンクさん、気付いてしまう~お前はいらないと追い出された無能だけど世界の真理に気付いたら周りがドン引きするほどの無双が始まりました

にこん

第1話 おっさん、無能で最弱タンク

ダンジョンからの帰り道。

馬車の中の雰囲気は最悪だった。


「おい」


野太い声。

言葉を発したのはソードという男。

この冒険者パーティのリーダー。

誰かに声をかけているのは明白だったが俺は目を伏せた。


(声をかけられたのは俺じゃない……俺じゃないぃぃ……)


必死に視線を下に向けて目を合わせないようにしていた。

しかし、現実というものは残酷であった。


「顔を上げろ。マモル」


マモル、それは紛れもなく俺の名前だった。


渋々顔を上げる。

目に入ったのはソードの不愉快そうな顔。

それから、周りを見てみたが他のパーティメンバーも不愉快そうな顔だった。


「なぜ俺がお前に声をかけたか分かるか?」


ぎゅっ。

自分が不甲斐なくて、拳を握りしめた。

痛いほどに理解している。


「今回の依頼の敗因が俺だったから」


「そうだ。」


俺を睨むようにしてみてくる。


明らかに良い感情は抱かれていない。


「お前は自分の役割を分かっているな?」


「俺はタンク。盾を持ってみんなを守るのが俺の役目だ」


「そうだ」


ソードは仲間たちに目をやった。

釣られて俺も仲間に視線を移す。

頭から血を流しているやつ、膝に矢を受けてるやつ。

それから失明しているやつがいた。


「お前が役目を果たせなかったせいで。これだけの負傷者が出た」


「はい……」


馬車の中の雰囲気はこれまでとは比にならないほど重くなった。

ソードは失明したやつに向かって指を向けた。


「こいつはなんで失明しなくちゃいけなかった?」


「俺が……タンクとして不甲斐なかったから」


「そうだ。お前がもっと頼りになるタンクなら良かったんだがな」


ぎゅっ。

悔しくて手を握りしめた。


今の俺にはこうして我慢することしか出来ない。

でも、ひとつだけ言いたいことがあった。


「俺だってこれでも真面目にやってる」


「真面目にやってたらなんだ?」


「……」


「タンクとしての役割を果たさなくていいのか?」


「うぐっ……」


「お前は金を貰ってここにいるんだろう?死んでも役目を果たせ」


その時だった。

ききーっと馬車が止まる音。


(街に帰ってきたのか)


「降りるぞ、お前ら」


ソードが先に仲間たちと共に降りていった。

俺はもちろん最後である。


馬車から降りるとソードは口を開いた。


「マモル。今日限りでお前をパーティメンバーから外す」


「えっ……でもタンクは?」


「他のタンクを探す。もう二度と会うことは無いだろうから最後にひとつ宿題を出してやろう。


そう言い残すとソードは仲間を引き連れて去っていった。


いつも仕事終わりにくれるはずの給料入りの皮袋。

今日はなかった。


どうやら俺の働きに出す金はないということらしかった。


「くそ……金がない。盾の修復も防具の修復もしなくちゃいけないってのに……」


それから、俺に足りないもの……?

それっていったいなんなんだろう?


足りないものなんてたくさんあり過ぎて、今は分からなかった。


でも1番足りないものは分かる。


それは……


​───────​──金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金金


カネ!

マネー!


カネがねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!


「金がいる。とりあえず冒険者ギルドに行こう」


金がないと話が始まらない。



立上 守(タテガミ マモル)こと俺は半年前まで普通の日本人だった。


そんな俺だったがある日気がついたら異世界にいた。

よくある様な異世界転移ものとは違った。

俺にはチートなんてなかった。

そして、更に都合の悪いことにこの世界はハードだった。


動かしていた足を止めて街のど真ん中にある巨大な塔に目を向けた。


「グリノヴァの塔、ねぇ」


王都グリノヴァ、この国が誇る世界一高い塔型のダンジョン。そして世界一難易度が高いことでも知られている。


そんなダンジョンに俺は毎日通っていた。

そうしないと生活出来ないからだ。


この世界は部外者には優しくない。

俺のような部外者がやれる仕事なんて危険と言われているダンジョン攻略くらいのものであった。


そして、できるジョブと言えば更に危険度の高いタンクくらい。

悔しいと言えば悔しいが、俺には特別な力なんてない。物語に出てくるような英雄でもない。

結局押し寄せる波には逆らえないし、1人で生きていくような力もない。

だから嫌々ながらもタンクをやっているというのが今の現状。


(おっ、いつの間にかギルドに着いていたか)


冒険者ギルドは塔の攻略をするには欠かせない施設。

仲間の募集からダンジョン攻略まで全てにおいてサポートしてくれる場所。


「……ふぅ、どっか拾ってくれるといいけどな」


扉を開けて中に入る。

むせ返るような酒の匂いが満ちている。


「くそっ」

「兄貴ぃぃぃぃ!!なんで逝っちまったんだよっ!」


どこかの誰かが死んだらしい。

その人間を忘れるためだろうか、酒を飲んでいるらしい。

まぁ、もう見なれた光景である。


そうです。ここはこんなに厳しい世界なんです。


(ご都合主義なんてない。金が空から降ってくることもない。稼がないと)


てくてくてく。


カウンターに向かう。

中には受付嬢がいる。


「臨時でパーティメンバーを募集しているところとかないですかね?」


「ランクは?」


「Eです」


「うーん」


受付嬢は悩みながら書類をパラパラとめくりだして……


「ないですね」


「そう、ですか」


肩を落とす。

その時だった。

つんつん。


後ろから突っつかれた。

振り向くとそこには女の子。


「おじさん仕事募集中?」

「あー、うん」

「なら良かった。一時的に私と組んでくれない?もちろんお金は払うからさ」

「俺、弱いよ?」

「うん、いいよ。話は聞いてたから。私はまだ駆け出し冒険者、ランクすらないし」


(ランクすらないってことは初心者か)


俺はこの時パーティリーダーの言葉を思い出していた。


『初心に帰れ』


まさにこの状況を予見したようなセリフ。

よって、返事も決まっている。


「分かった。君に付き合ってみよう」


女の子は笑っていた。


「そうこなくっちゃ。さっそく、行こうよ」


この子との依頼で俺は自分に足りないものを見つけることが出来るのだろうか?


いや、足りないものを必ず見つけて改善して成長しないと。

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