アイスエッジ

糸式 瑞希

第1話

 ある日、道を歩いていると、道路に剣が突き刺さっていた。

 それは、美しい、一振りの短剣。刃渡りおおよそ30cm、魔法のような引力を放ち、陽の光を受けて、光り輝く。

 その様子に…、俺は一目見て、心奪われた。


 意識がはっきりしない。どこをどう歩いて、どう通ったのか。

 そうして…、曖昧な記憶の中、家路に着いた俺。部屋への階段を上がると、制服のまま、俺はベッドの上に寝転んだ。

 疲れていたのか、俺はそのまま眠り込んでしまった。


 そして、夢を見た。

 列車の中、向かい側に誰かが居る…。

 男は、黒いモッズコートを羽織って、フードを深く被っている。

 彼が…電車の窓を横目に、風景が変わるのを、気怠そうに眺めている。


「なあ、君」

 別の方向を見ていた俺は、その声で男の方…向かい側に目をやった。

「それ、君の剣か?」

 剣…?

 そう言われて、俺は膝の上に剣を置いていると気付いた。

 それを見た彼は…

「うん、変わった素養だ」

 彼がそう言った、そこで目が覚めた。


 何か、夢を見ていた様な気がする。

 スマホのアラームの通りに起床した俺は、寝起きの頭で少しぼんやりとした後、昨日の出来事を思い出して、通学鞄を開けて中身を…、剣を取り出した。

 すると…

 剣は氷の様な結晶に包まれていた。

 それを言葉で表すなら、氷…。だが、それには冷たさはなく、そして溶けることはない様子だった。


「…」


 まあ…、これを危険物と判断する警官や教師は居ないはずだ。

 なんとなく、学校に持って行くことにした。


□□□


 教室で、俺は授業を受けている。

 ありふれた光景、ありふれた日常。クラスメイトの会話の声…

 教師の授業の半ば子守唄の様な声に、こんな日常も…、後からすれば何らかの思い出になる。

 そうなるのも良いのかも知れないと…、年甲斐もなく独りごちた。


 昼になって、購買でパンを買う。

 友達は居ないから、一人で食べる。まあ、そもそも…。俺は家にいても、家族とは一緒に食事は取らないわけだが…。(別に単にそうだと居心地が悪いからだ)


 屋上でパンを食べる。こう言う時って、決まった物を選びがちだ。

 代わり映えのないラインナップに、俺は安心感を感じるタイプなのだ。


 そういえば…鞄の中に、剣を入れていた。

 朝見た時は、結晶化していた。鞄を開けて、中身を見てみた。

 すると、結晶は更に大きくなり、そして、内部の剣は微妙に形を変えて変形している様に見えた。


「こ、これは…?」


 剣のことも有ってか、早めに今日一日を切り上げる事にした俺は、授業が終わると早々に学校を後にした。

 そして、どこをどう歩いたのか、いつの間にか、日が暮れている。


「ねえ、君」

「えっ…?」

「君、学生さんだよね」

「え、ああ、はい…」

 考え事をしながら道を歩いてた俺が、自分が警官に声を掛けられている事を自覚したのは、話しかけられてから少しタイムラグがあっての事だった。

「ちょっと鞄、見せてもらえるかな?」

 鞄…?

 ふと鞄をみると、鞄から結晶化した剣が飛び出していた。こ、これは…。

「す、すいません…」

 ここは、素直に言うことを聞いておいた方がいいに決まっている。

 俺は鞄を開けて、大人しく剣を警官に見せた。

「すごいな、これ…、剣、か?」

「すいません…」

「もう遅いから、早く帰りなさい」

「すいません…」

 謝ってばかりだ…。



□□□



 家路に着く。

 毎日、学校に行って、授業を受けて、帰宅する。

 将来への漠然とした焦り、と言うのは、子供の頃も今も変わらない。

 日々、これでいいのか…他の人々は、どんな心境で日々を過ごすのか…

 考えすぎかもしれないし、逆に考えなさ過ぎなのかもしれない。

 剣を拾って、何かが変わる…?そんな風に一瞬考える。

 だが、こんな物騒なもので何をどうしようと言うのか…。

 誰もが、子供の頃憧れるヒーロー…。

 これが、この世界がRPGの様な世界なら、英雄にでもなれる…とでも言いたいのだろうか?


 今日は色々あって疲れている…。

 早めに眠ることにした。

 まあ、こう言う時は早めに休んでも体の疲れが取れる事は無いわけだが…。


 そしてまた、夢を見た。

 列車の中で、男と二人。

 彼は、俯いて、床の方をただ見つめている。

 その彼が僕の方を見た。


「なあ、君は…」

 彼が言う。

「いや、何でもない。また、会ったね」

「はい…」

 なぜか…俺は旧知の仲の様に話に受け応えていた。

「君の剣…、なるほど」

 彼が懐かしそうに、目を細める。

「剣?」

 俺は座っている席の横に立てかけてあるものに目をやろうとして、

 そして、そこで目が覚めた。


「朝か」

 独り言でそう言った俺の目に飛び込んできたのは…


 楽器のハープか何かの様な形をした剣…?だった。

 何というか、どこかで見たことがあるような形な気がする…、奇妙な既視感を感じた。

 どこかで見た、何らかだと思う。

 弦の部分に矢をつがえるらしく、10本ほど、矢の様なものが装填されている。

 白を基調とした美しい装飾を施された、まるで意志を持つかのようなその存在感に、俺はしばらく圧倒されていた。

 まるで、息づかんとばかりに美しい、彫刻か何かの様なようなその姿は、俺の心を突き動かした。


「芸術作品…?」

 思わず、独り言でツッコミを入れていた。

 これ、売ったらいくらになるだろうとか、そんな事を考える。それは何となく、罰当たりな気もする。


「これは、さすがに持ち運べないな…」

 そう、独り呟いた。

 何となく、手を触れてみる。

 すると、頭の中に剣の使い方、の様なものが意識として伝わってきた。

 透明にする事ができる、とわかった俺は、

 剣が透明に出来ることを確認すると、

 やはり何となく、学校に持っていく事にした。


 いつも通り学校に通う。剣を背負っているからか、体が少し重い。

 すると、廊下の途中で急に襟首を後ろから掴まれた。

「ねえ、君、剣使いでしょ」

 そしてそう、少女の声で聴こえた。

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アイスエッジ 糸式 瑞希 @lotus-00

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