第4話

また講座の日がやってきた。テーマは「初デートの失敗例とその対策」。ネットで拾った情報をベースにスライドを作り、自分なりのアレンジを加えた。とはいえ、アレンジ部分がどこまで通じるかは未知数だ。


講義室に入ると、生徒たちの目が一斉にこちらを向く。初回よりは慣れたはずなのに、やっぱり緊張する。


「えー、皆さんこんにちは。今日は、初デートでの失敗例についてお話しします。まあ、失敗は誰にでもありますよね……」

ぎこちない笑みを浮かべながらスライドを切り替える。


「例えば、会話が途切れて気まずい沈黙が……」「つい奢りすぎて、相手に気を遣わせてしまった」

デートでありがちなミスをいくつか列挙してみせる。


「こういう時には、あらかじめ話題を準備しておくのが大事です。特に、相手の興味に合わせたものを選ぶと……」


その時、一人の生徒が手を挙げた。

「先生、具体的にはどんな話題がいいんですか?」


来た。毎度おなじみの「具体例くれ攻撃」だ。俺は笑顔を作りつつ、脳内で必死に検索をかける。


「えーっと、例えば、最近観た映画の話なんかはどうですか? お互いの好みがわかるし、自然と会話が続くと思います。」

自信はゼロ。でも、生徒たちは頷いてくれている。少しは信じてもらえたのだろうか。


講座が終わると、生徒たちは次々と帰っていったが、俺は教室に残って反省会を始める。


「やっぱり、経験がないのがネックだよな……」

他人の体験談やネットの情報に頼るのにも限界がある。この先、どうやって乗り切ればいいのか見当もつかない。


そう思っていると、教室の入り口に立つ人影が見えた。


「田中先生、少しお話ししてもいいですか?」

声をかけてきたのは女子学生の一人だった。


「うん、もちろん。何か質問かな?」

ちょっとドキドキしながら答える。まさか厳しい質問がまた飛んでくるのか?


「あの……デートの実演を、先生がしてくれませんか?」


……は?


「えっ、実演?」

思わず聞き返す俺を無視して、生徒は話を続けた。


「先生のアドバイス、理屈ではわかるんですけど、具体的にどう振る舞えばいいのかイメージしにくくて。だから、実際にデートのシミュレーションをしてほしいんです!」


他の生徒たちも集まってきて、次々に口々に賛成し始めた。


「そうですよ! 実演してくれたほうが絶対わかりやすいです!」

「先生、お願いします!」


逃げ場は完全に塞がれた。


「わ、わかったよ。でも、これって普通に講義の範囲を超えてないか……?」

そんな呟きが誰にも届くはずもなく、俺の模擬デートが決まった瞬間だった。

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