婚約破棄に国外追放でしょ?イケメン王子のギルドのお手伝いしますのでどうか連れ戻さないで下さい

るあか

第1話 王子に嫁ぐために

「ねぇ、王子。あんな貴族の底辺の女との婚約なんて破棄してわたくしと正式に婚約して下さらないの?」

「ダメなんだアドリーヌ。エレノアは魔力量でお父上に選ばれた婚約者。僕が王位を継承するためにはエレノアとの結婚が絶対条件なんだ。でも、本当に愛しているのは君だけだよアドリーヌ。エレノアとはまだこうして身体を重ねたことすらないんだから」


「あの女、魔力だけが取り柄ですものね。それを振りかざして家族ぐるみで国王陛下に取り入って……なんてはしたないのかしら」

「彼女の家族も必死でさ、僕が冗談で婚約破棄するって言うと、秒で土下座してその後エレノアを叩くんだ。“お前また王子に失礼を働いたのか!?”ってね」

「まぁ、面白いのね」

 アドリーヌの笑い声が聞こえてくる。


「彼女の家族も彼女も僕の奴隷さ。分かるかい? 国の定めた“絶対魔力量”を優に超える女を僕は好きに扱えるんだ。彼女にはこの先表面だけの妃としての役目を果たしてもらって、僕はこれからも君との愛を重ねていきたいんだ」

「わたくしはあなたにとっての本当の妃になれるのですね?」

「そういう事。じゃ、もう一回重ねようか。今日は何だか収まらないんだ」

「もう、王子ったら……」


 そこからは甘ったるいやり取りになり、聞くに耐えなくなった私は王子の部屋の前を後にした。


⸺⸺


 自分の屋敷に戻ると、コソッと部屋に閉じこもる。

 そして、バルコニーへと出てどこまでも青い空をボーッと眺め、これまでの人生を振り返った。


 私の前世は日本人。お医者さんになりたくて必死に勉強したけど、家が貧乏過ぎて医大に行くお金なんてなくて諦めた。

 両親の経営する工場で働き始めてある日の仕事帰り、大通りに飛び出した子猫を助けようと思って私も飛び込み……気付いたらこの世界の貴族の家に生まれ変わっていた。


 所謂“異世界転生”というものだ。私は前世の記憶を持ったまま、男爵令嬢であるエレノア・オルコットとして第二の人生を歩み始めた。


⸺⸺


「はぁ……」

 自然と出るため息。手すりに手をかけて、ショボンと落ち込んだ。


 ふと、隣の部屋のバルコニーから顔を出したある人と目が合い、血の気がサーッと引いていく。その人は血相を変えて再び部屋に戻っていくと、ノックもせずに私の部屋へと押し入ってきた。

 私も観念して部屋へと戻り、その人と対峙する。


「お母様……その……」

 罪悪感に満ち溢れながら、その人、お母様へと話しかける。お母様は今にも噴火しそうな形相だった。

「……なぜ、ここにいるの? まさか、王子の部屋にも行ってないの!?」

「いえ、行ったのですが……」

「ですが、何?」


「あの……先客がいて……」

 私は恐る恐る言い訳を始める。

「……先客?」

「ブルドン侯爵令嬢のアドリーヌ様とお取り込み中のようでしたので、お邪魔をしてはいけないと思い……」


「ブルドン卿の……? ご令嬢……?」

 お母様は顔をしかめる。

「はい……」

「よくもまぁ、そんな嘘を思いついたものね!」

「嘘では……」

「おだまり!」

「っ!」


 パンッと頬をはたかれ、ヒリヒリとしているそこを擦る。

 お母様はものすごい形相で口を開いた。

「ブルドン卿のご令嬢が王子に用事などあるはずがないでしょう!? 自分の身体に自身がないからってブルドン卿のご令嬢のせいにするなんて……なんて嫌らしい子なのでしょう」

「……すみません……」


「あなたももう20歳なのよ? 王子との婚約を確たるものにするために早く抱かれて子供を作ってしまいなさいと何度言ったら分かるの!? 私はね、この日のために決死の覚悟で王子のお食事に精力剤を混ぜたのよ? あの作業がどれほど大変だったか分かってるの!?」

「ごめんなさい……」


「あなたはね、王子に嫁ぐために生まれてきたんだと、もっと自覚を持ちなさい。これまでどれだけあなたの教育にお金をかけてきたと思ってるの? それなのにこんなだらしのない子に育ってしまうなんて、大失敗よ。あぁ、それこそブルドン卿のご令嬢を見習ってほしいわ」

「……はい、すみません……」


「いいから分かったら今から王子の部屋に押しかけなさい。抱かれて帰ってくるまでご飯は抜きです。いいわね!?」


 お母様は私の返事も聞かずにバンッと強く扉を閉めて出ていった。

 まるで嵐が過ぎ去ったかのようにシンとする部屋。


 どうしよう……今行ったって、まだ最中だと思うんだけど……。

「はぁ……」


⸺⸺再び大きなため息を吐いた、その瞬間だった。


 目の前が突如キラキラと光り出し、その光が収まると目の前には天使の羽を生やした黒猫がパタパタと浮かんでいた。

「えっ!? 何……!?」


 動揺する私をなだめるように、猫はこう自己紹介をした。

『急に驚いたよね、ごめん。オイラはあの時助けてもらった子猫だよ』


「……え?」

 私は、頭が真っ白になった。


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