第26話 健、刀持ちとなる④
土壁というか、地面を掘ったその先をただ固め、そうして崩れない様に木材の柱を埋め込んだそういう空間が、耶摩美の言う部屋であるらしい。
上側にあった廃屋、かつては神社と言ったらしいが、その範囲よりは二回り程小さい空間。
ただ、それでも中々の広さであり、上側に繋がる蓋の形をした出入口も、幾つもあるとの事。
「それを上手く隠しつつ出入りしておれば、目や心の良く無い連中は、突然現れ突然に消える魔性か何やらだと思い近づこうとしなくなる。見た目もこの通り、廃屋に住んでるとしたらおかしい外見であろう? 驚かせるには好都合と言うわけだ」
蓋から地下に降り、細い通路を少し進んだ先にある部屋にて、丸机を囲みながら、健達は
まず耶摩美の話を聞いていた。
というより、何やら話をしたくて溜まらない気分だったのか、耶摩美の方から饒舌になっていた。
「生きて行くための知恵というやつだ。神に対してそれを騙るのは不敬やもしれんが、別に贅沢や過剰な欲のためにしているわけでは無いのだから、許してくれるだろうよ」
「なるほど……かなり大変な生活を……えっと、子どもだと言うのに?」
と、見た目は少女の耶摩美を見る。一見、健より年は下だ。そうとしか見えないのだが、何故かそう思えないという状況が健の中で続いていた。
おかげで受け応えがぎこちなくなってしまう。
「子どもか大人か、どちらだと思う?」
「え、ええ? どちらだと言われれば……」
かなり悩ましい。即答出来ない。悩み、考え込んでいる間に、耶摩美の方はならば別の話し相手をとでも思ったのか、アイリンへ視線を向けた。
「若く未熟な男子を相手にするのも悪くは無いが、今の気分はそなたの方だな。そなたはどう思う? 妾が何者か……というか、何故神では無いとすぐに断言出来た? 大半の人間を騙せるくらいに、上手くやれているつもりだったのだがな」
神社に寄って来る者を、その手口で退散させていたと、あっけらかんと言ってみせる耶摩美。まあ、こっちはタネが分かっているのだからそういう態度にもなるのだろうが……。
「お話をしてみな、相手がどなたかなんて分からん事ばい。急に現れたりする方法についても、未熟言われとるけど、そのタケルくんが指摘してくれな、うちはどういう方法かぜんぜん分からんかったしねぇ」
「ほうほう。ならば、ますます神である事だけは否定して来た事が謎だな。単なる勘というわけでも無い様に見えたが?」
確かに、曖昧な発言では無かった。アイリンの言葉は、何らかの筋の通った言葉だったからこそ、それを聞いた健も冷静さを取り戻せたのだ。
「うーん。神社言うんも詳しくは無いんやけど、少なくともこの上に立っとったもんは、向こうの方の山を崇めとったもんやろー?」
「ほほう。良く分かったな。つまり、妾が山ではないから、神では無いという理屈か?」
耶摩美の問いに対して、アイリンの方は首を横に振る。
「ここから見える山っていう景色が神様なんよ。つまり……ここにずっと住んどるわけやない。ここで人が山を見つめた瞬間、そこに神が現れる事になるばい。やから……ここにずっと住んどる言うあなたは少なくとも神様や無いばい。そないな事なんやけども」
「……なるほどな。神なるものを良くわかっているらしい」
健の方は良く分からない。
どうにも神様とやらはすごい存在という言葉だけでは足りぬ何かがあるらしい。そうして、そういう何かを神社という場所において祀っていたという事なのだろうか? いや、神社には住んでいないのか?
「俺がとことん無知であるからかもしれませんが、この話は何か、お互いに得るものが有る内容なのですか? そこがまず分からないと言いますか」
一応、こうやって旅先で出会った相手と茶を飲むのは、ある種の醍醐味であると思う余裕くらい、健にもあるつもりだ。
一方、話の内容自体がさっぱりである。もう少し嚙み砕いた会話なるものが無いものだろうか。
「せやねぇ……うちがウミウチへ来たんは、そもそもが布教のためやけん、ここで詳しく聞いておきたいのはあるんやけど……タケルくんには退屈?」
「あ、いえ、アイリンさんの目的と合致しているという話が聞けたのなら、それで満足です。そこすら良く分かって―――
「布教に来ただと? この土地へ?」
何故か、アイリンの言葉に耶摩美が強く反応した。もしや神社に実際に住んでいる関係上、海の外から来た人間が、神の教えを説くという事に不快感を覚えたのか?
だとしたら空気が悪くなってしまうが……。
「遂にその手の話が来たか! 何百年と待った甲斐があったというものだ! またどこかの土地で、新たな信仰が生まれると期待していたが、外から来たというのはやや歯痒い思いがある! しかしだしかし! むしろ完成したものがそのまま来てくれるというのならば、願ったりと言わねばならんかな!」
と、何故が耶摩美は喜びだした。アイリンの言葉の中に、そんな上機嫌になる内容があったろうか。
「って、待ってください。何百年と待った?」
「うん? なんだ。驚きか? 確かに妾は神では無いがな。常人だと認めたわけでも無いぞ? 寿命に関しては相応には化生よ」
まるで些末事だと言ってのけつつ、耶摩美は健を見て笑って来た。
その笑みは、やはり妖艶……いや、まさに正真正銘、妖しいものであった。
どうやらまた、尋常では無い出来事に巻き込まれたらしい。健は漸く、それを自覚する事となっていた。
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