私の推しと年下幼馴染みが同じグループのアイドルで困る
琥たろう
第1話
キラキラの照明に照らされたステージで輝きを放つアイドルという存在を初めて見た日から、私の日常が少しづつ変わり始めた気がする。
「はぁー!今日も推しが尊い・・・。」
昼下がりの休日。インドアな私は大抵だらだらと二度寝をした後、お腹が空いてきたお昼過ぎにゆっくり起きる。そこから昨日仕事帰りに寄ったスーパーで購入した4個入りのドーナツを頬張る。ミルク多めのカフェラテと一緒に一口食べればいつもの休日の始まり。甘い物でエネルギーチャージして早速、テレビ画面に繋ぎっぱなしのブルーレイのスイッチオン。
「何度見てもこの日のコンサート最高だなぁ。新曲の衣装もメンバーごと少しづつデザインが違って良いし、何より推しのソロパートがもう好きすぎて同じとこ巻き戻ししたり一時停止して一つ一つの表情拝めるの幸せすぎる・・・!」
私は2個目のドーナツに手を伸ばす。大好きなチョコレート味。一人暮らしの社畜OL35歳、一華の幸せな日常である。
「んで、俺のスペシャルスマイルソロパートには興味ないわけ?」
「ぎゃあ!」
背後から突然話しかけられて驚く。
「何画面に向かってぶつぶつ言ってんだよ。」
この生意気な奴は同じマンションに住む10個下の幼馴染みでもあり、私の推しているウルトラ⭐︎レボリューション、略してウルレボの不動のセンター、通称、銀河様だ。
実家暮らしだった頃から隣の家に住んでいて、親同士も仲が良かった銀河が一人暮らしを始めるタイミングで、何かと面倒を見てほしいと銀河の両親からお願いを受け、たまたま同じマンションの一部屋が空いたので引っ越してきたのだった。
「またノックもしないで入ってくるなんて止めてって言ってるでしょうが!」
私の部屋の鍵を持つ銀河はこうして頻繁に、そして毎回突然訪問してくる。
「お前がそんな腹黒眼鏡に夢中になってんのが悪い。」
「もー!迅様の悪口言わないでッ!」
私の推しである迅様は、ウルレボの中でも知的な眼鏡の似合う落ち着いた雰囲気で、品のある黒髪に紫の担当カラーがお似合いの麗しいお顔立ちで、見ているだけで手を合わせたくなる尊いお方なのだ。日々更新する迅様の美しさを拝見させて頂く鑑賞の時間は私にとって生きる喜び。
そしてそんな推しとの奇跡の出会いを果たせたのは銀河のおかげでもあるけど・・・。
「ていうか何しに来たの?」
「打ち合わせ前にジム行こうと思ってたけどちょっと腹ごしらえしに来た。」
そういうと、テーブルの上のドーナツを手に取り口に放り込む。しかも大事に最後に食べようとしていたチョコ味の方を。
「あー!私のチョコドーナツがッ!」
「うま。あーでもこれコーヒーと合いそうだなー。」
「もー!今お湯沸かすから待ってなさい!」
来るなら一言連絡してくれればいいのにと毎回思う。
私はキッチンへ向かい電気ポットでお湯を沸かす。
ったく。小さい頃はもっと可愛げがあって素直でちっちゃくて可愛かったのにな。
親同士も昔から仲が良かったので、共働きだった銀河の両親がいない時はうちに来て一緒に夕食を囲んだりすることも日常茶飯事だった。
幼い頃は大人しくていつもにこにこしている可愛らしい子どもだったので、勉強を教えたりお菓子を作ってあげたり可愛がっていたのだけど、私が大学に入った辺りから就職するまですごく忙しかったので、だんだん顔を合わせることも少なくなり、少しづつ関わる機会も減ってしまった。
気がつけば銀河は、私がもう何も教えることなく成績優秀スポーツ万能、背丈もとうに私を超えていた。
そんなある日、勤めていた会社でいろいろあって気がつくと心身が少しづつ壊れていたようで、朝起きてベットから出ようとしたら突然、動悸と震えが止まらなくなったのだ。
で、そのまま休職という形を取らせてもらったのだが、そんなタイミングでしばらく連絡していなかった銀河からライブのお誘いを受けた。
そこからまさか私がアイドルにハマるなんて、その時は全く思ってもいなかったけど。
「お砂糖とミルク一応もってきたけど。」
「いい。そのままで。」
いつになったら帰るのか、そう思いながら私は携帯を手に取る。すると、届いばかりのメールを見て驚く。
「・・・・・え、これは夢?」
「ん?」
「ウルレボ推しメンと30秒オンラインお話し会に当選したの!!」
私は当選メールの文面を銀河に向ける。
「あー。そういやそんなんあったな。」
神様。これは現実なのでしょうか?先日リリースされた音源に付いてくるランダムカード欲しさにいくつか買って応募したかいがありました。ちなみに推しは出なかったけど。
「どうしよう・・・!私が迅様の視線を30秒も奪ってしまっていいの?あの麗しい眼差しに見つめられ、あまつさえ会話までさせて頂き罪にならぬものかどうか。」
「じゃあ止めれば?」
「絶対に参加します!参加させて下さい!」
私は即答する。
「でもどうしよう!何をお話ししたら良いの?そもそも迅様と目を合わせたら平常心でいられるの?無理無理!下手したらその場で気絶だわ・・・。あー!でもその方が無理!あー!どうしよう!!」
大混乱する私を横目に銀河は2個目のドーナツを食べている。
そして慌てふためく私に向かってこう言った。
「じゃあさ、俺が練習してやろうか?」
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