第3話
目が覚めると、朝になっていた。
すぐ横を見ると母さんの無惨な亡き骸がそこにはあった。やっぱり夢じゃなかったのか。その事実にまた胸が痛くなる。
そしてその時には昨日の頭痛はなかったかのように治っていた。一体なんだったんだ…
そこから俺は、部屋を整理して、母さんの大事にしていた庭にお墓をつくった。
そして形見として母さんがいつもつけていた赤い宝石のネックレスを自分の首にかける。
いつでも母さんを思い出せるようにと、復讐の決意が揺るがないように。
そして、お墓に手を合わせて俺は7年住んだ家を後にした。
俺のこの旅の目標は王宮がある首都だ。
そのためにはまず近くの街に出て首都への行き方を調べないといけない。そう思った俺は、唯一母さんと買い物に行ったことがある隣町のブロムバーグを目指す。
「誰か助けてー!」
そんな時、静かな森の中で女性の声がこだました。
俺は声がした方に駆け寄る。
そこには、2人の男が1人の女の子を襲おうとしている姿があった。
か弱そうな女の子相手に2人で
…なんて奴らだ。
「おい、やめろ!その子を離せ!」
その声に俺の方を見た男たちは、その瞬間怯えたような顔をして「すみませんでした!」と逃げる。随分素直に逃げるんだな…
「大丈夫か?」
俺は、座り込んでいる女性に声をかける。
見た目は俺と同い年ぐらいか?
そしてあいつらに手を縛られていたらしく、紐をといてあげた。
「……はい、大丈夫です…ありがとうございます」
俺と目が合った瞬間、女性は顔を真っ赤にしてそう言った。一瞬女性の目が赤く光った?…まあそんなわけないか。
立ち上がった女性は、とんでもない美少女だった。眩しいくらいの金髪にグリーンの瞳、色白の肌に痩せた体には似合わない豊満な胸。
…そして耳が尖っている。
「その耳、もしかして」
「耳?ああ、私エルフなんです」
エルフ、前世でゲームや漫画などでは見たことがあったが、この世界で本物を見るのは初めてだ。そうか、エルフも耳が尖っているのか。もしかしたら吸血鬼かと思ってしまった。
「すみません、人間と思って助けてくれたんですよね…すぐに立ち去りますので見逃してもらえませんか?」
ひどく怯えた目でそういう女性。
ああそうか。母さんの手紙にあった、この国では人間以外の種族は迫害されてるってやつ。もしかしたら襲われてた理由も…
「いや、そんなつもりはない。俺も同じようなものだから安心してくれ、襲ったりはしない。」
そして俺は髪で隠してる尖った耳と牙を出す。
「俺はダンピールだ」
そう言った瞬間に、女性の目から涙が溢れた。
「え?ちょ、俺なんか…」
「いえ、すみません。なんか安心しちゃって。」
手で涙を拭いながらそう言う女性。
「私はシュカと言います。家族はおらず故郷も人間に奪われ、行き場がないところ貴方に出会いました。もしよろしければ、私も貴方様にお供させていただけないでしょうか?」
俺の手を取り、そう言うシュカさん
「それはできない」
「なぜでしょうか?」
「俺は昨日ある男に母を殺された。その男は今首都にいて、この旅の目的はその男に復讐することだ。そんな危険な旅に君を連れて行けない。」
力になってあげたいが、この復讐にこんなか弱そうな女の子を巻き込むわけにはいかない。
「それでもいいです。」
俺の答えに返ってきた言葉は意外なものだった。
「いや、さっきの話聞いてたか?」
「はい、私にできることは協力したいです。首都への行き方ならわかりますし、それにさっきは手を縛られてたので無理でしたが、魔法も少し使えるんです。お役に立てるかはわかりませんが、命の恩人である貴方様にぜひ恩返しする機会をくださいませんか?」
シュカの目はまっすぐに俺を見ている。
正直、首都までの行き方がわかるのはありがたい。それに俺の目的を聞いてもなお、ここまで言ってくれているのなら俺からしても願ったりだ。
「わかった、よろしく」
こうして旅の仲間が1人増えたのだった。
ブロムバーグへの移動中、お互いのことを色々話した。
シュカは見た目は若く見えるが、140年は生きてるという。そして人間に故郷が奪われたのは30年前、王が変わり人間以外の種族への差別が激しくなったとか。それからは1人でいろんな地を転々としてきたらしい。
シュカの故郷を奪ったその王は俺の父であり殺したい男、カイザル・ゼルギウス。
そのことはとてもシュカには言えなかった。
そこから2時間ほど歩いただろうか。
ようやくブロムバーグへ到着した。
そこで俺たちはまず宿を探すことにした。
街に入って歩いていると、なんだか不自然なくらい視線を感じる。特に女性から。
「なあ、シュカ。俺すげー見られてる気がするんだけど」
「それは、レイ様が美しいからかと…」
シュカは照れたようにそう言う。
それだけでこんな見られるもんなのか?
…落ち着かない。
隣を見るとシュカは大きいフード付きのローブのようなものを着ている。
フードを深く被っているため、一目でシュカをエルフと認識できる人はいないだろう。
俺も顔を隠すものが必要なんじゃないか?
毎日この注目のされようは気が滅入るし、万が一にも国に俺の存在がバレたら…
「シュカ。そのローブ、どこに売ってるんだ?」
「これは母からもらったものですが、服飾店に行けば売ってあるかと」
「そうか。明日ついてきてくれ」
「もちろんです!」
シュカがそう言った瞬間、何やらぐううと言う音が聞こえる。
隣を見るとシュカが「あ、」と恥ずかしそうに俯いていた。
「…す、すみません…」
「いや、先に飯を食うか」
そういえば俺も昨日から何も口にしてないな。
あんなことがあって気が張っていたのか、急に空腹を思い出す。
俺たちは宿探しを一時中断し、近くにあった賑やかな酒場に入った。
「何が食べたい?」
「わ、私はレイ様と同じもので…!」
困ったな、俺も結構優柔不断なのに
俺はとりあえず店員さんを呼んだ。
「あの、この店のおすすめを2つもらえますか?」
「はい…少々お待ちください///」
若い女性の店員は、俺と目が合った瞬間、目をとろんとさせ高い声でそう言った。
「今の店員さん、絶対レイ様に見惚れてました」
シュカは、頬を膨らませながらぶつぶつ言っている。
やっぱり、今店員さんの目が赤く光った…シュカの時に感じた違和感は気のせいじゃないのか…?
「なあシュカ、今の店員さん目が赤く光ってなかったか?」
「え?目が赤く?私には見えませんでしたけど」
見えてない、てことは俺にしか見えないのか?
「シュカの時もそうだったんだよな、初めて会った時目が赤く光った気がしたんだよ」
「私もですか?目が光ったかは自分ではわかりませんが、実はレイ様を一目見た時、胸がドクンとなってまさに心臓を撃ち抜かれたような感覚になりました…あれはまさに運命の出会い…」
「そうか、参考になった」
そう言った俺に「それだけ…」拗ねたようにそっぽを向くシュカ。
「お待たせしました〜」
その時、注文した料理がやってきた。
テーブルに収まりきれないほどたくさん。
え?俺2つって言ったよな。
「あの、こんなにたくさん頼んでないんですけど」
「このお店は全部美味しいのであなたには全部食べていただきたくて…!」
「いやでもこんなお金…」
「いらないです!これは私からのサービスってことで」
「「サービス??」」
驚きのあまりシュカと目を合わせる。
「さすがにそんなわけには…」
「いいんです!その代わりまたぜひここに来てくださいね!ではごゆっくり」
店員さんはそう言って厨房に走って行った。
なんてこった。
こんな高待遇初めてだ。めちゃくちゃいい店じゃないか。
結局残さないようにと2人でお腹いっぱい食べた俺たちを、本当にお金も払わずに帰してくれた。それにこの街のおすすめの宿まで教えてくれた。これからご贔屓にしたいところだ。
そして俺たちは教えてくれた宿に向かったのだった。
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