第22話 ボケ頭チャンバラマスター
「ちょ、ちょっとイッシン君!? どうしちゃったの!?」
「うがぁああああ!! 儂は最強!! 儂は最強!! 剣鬼流の武錆一心を舐めるなぁああああ!!」
「舐めてない舐めてない!! むしろ尊敬してるってばー!!」
急に姿を現したかと思ったら、急に突っ込んできたイッシン君。
目の焦点が合っていない。
意思疎通も取れない。
オレをチェルシーさんだとわかっていない。
「――――ッ!!」
たった一度まばたきをした瞬間に、イッシン君は目の前にいた。
足音を置き去りにするほどの速度。
振り下ろした刀はオレのすぐ横を掠め、彼自身が生み出す斬撃は建物を切断する。
「ガハハハッ!! おでこに汗出てるぜ、レオナルド!!」
腕を組んで高笑いするレイデン君。
「そのクソジジイは、俺がガチガチに
急いで後方へ距離を取る。
それよりも先に、イッシン君の不可視の斬撃が、チェルシーさんに変身していた魔術を斬殺する。
……このままじゃまずい。
更に距離を離すためテレポートする魔術を行使しつつ、妨害用に百以上の魔術をばら撒く。
だが、無駄だった。
一切合切を斬り伏せて、テレポートすら許さない。
「やっちまえ!!
「うがぁあああああああああああ!!!!」
あぁまったく……オレの何もかもが通じない。
本当に面白いなぁ、二人は。
◆
「おい一心、稽古に行くぞ」
「あぁ! ……ん? あれ?」
気がつくと、儂はヤマト国の……それも実家に戻っていた。
儂に声をかけたのは、もう随分と前に死んだはずの兄上。
その見てくれは十代そこそこで、儂もまた小僧に戻っている。
何だ? 何が起こった?
ついさっきまで、チェルシーちゃんを取り返すために先生と戦ってて……それで……。
うーん、思い出せない。
何か魔術にかかったのか?
夢でも見せられているとか?
いやでも、他でもないこの儂が……?
「ぼーっとするな。ほら、早く来い!」
兄上に頭を殴られ、儂は家の裏山へ連れて行かれた。
よくわからないが……不思議と、悪い気はしない。
こうして、死んだ兄上に会えたわけだし。
「さぁ、いくぞ!!」
刀を構え、思い切り振り下ろす。
目の前に敵がいることを想定して、またはどでかい化け物を、人食いクマを、巨岩を、イメージの中で斬り伏せる。
剣鬼流は、初太刀に全てを懸ける剣術。
一撃目以外の技はない。全筋肉を、全神経を、全技術を、先手に込める。
だから、外れたり切り返されることを想定していない。
そういう、気の狂った剣術。
……まあ、今となってはあまりにバカ過ぎるから、儂主導でかなり改善したが。
小僧の頃から、儂はただ我武者羅に刀を振るってきた。
稽古を経て実戦へ、実戦を経て稽古の質を上げ、更に実戦へ臨む。
父上が死のうが、母上が死のうが、兄上が死のうが。
ただこれだけは、誰にも負けたくないから。
ただこの一刀しか、儂には誇れるものがないから。
目の前の敵を斬って斬って斬って、斬り続けて。
――いつの間にか、頂点に立っていた。
◆
勝負は五秒ともたなかった。
俺の
この二つが生み出すのは、問答無用の切断。
横薙ぎに一閃。
レオナルドは上半身と下半身に分かれ、戦闘不能となった。
「おいレオナルド、まだやるか?」
「……いやぁ、無理っぽいね。さっきから治そうとしてるんだけど、できないんだよ。何あの斬撃、やっぱり意味わからなさ過ぎてウケる」
床に横たわるレオナルドは、ゲホッと血を吐きながらも嬉しそうに言った。
「なぁ、会ったら聞こうと思ってたんだが……」
「ん?」
「……お前、何で仲間を皆殺しにしたんだ? 俺に言ってたよな、初めて友達ができて嬉しいって。あの時の言葉は、嘘じゃなかっただろ?」
「あー……うん、それねえ。オレって飽きっぽいから、仲間にも飽きちゃったんだよ。レイデン君みたいに、上手く付き合っていくとか無理だったなぁ……」
何があったのかはわからないが、飽きたというのは嘘だとすぐにわかった。
子どものみたいな目に、僅かだが罪悪感がにじんでいた。
「でも大丈夫! 全部、
「元通り……?」
「最初から全部、元通りにする! だから、何をやったって大丈夫なんだよ!」
「お前、一体何を――」
「それよりさ、あれは放っておいて平気?」
と、俺の後ろを指差した。
そこには、いまだボケたままでブンブンと刀を振り回す武錆がいた。
「あ、やべ!! 戻し方、考えてなかった!?」
「あっはっはー。まあ、放っておいたら魔力切れで戻るでしょ」
「んな悠長なこと言ってられるか!」
話している間に、「うがぁああああああああああ!!」と奇声をあげながらどこかへ走り出す。
……や、やばい。
確かに時間経過で元に戻るけど、とんでもない化け物を野に放っちゃったかも……。
……あれが何かしでかしたら、俺の責任なのか?
いやまさか、そんなことないよな。
俺はただ、あいつをボケ老人にしただけ。ついでに身体能力をバカほど上げて、刀の斬れ味も上げたけど、それ以外は何もしていない。
むしろ勝手に暴走されて、被害者って感じだぜ。
……うん、悪くない。
悪くない、はず。
「――――っ!!」
突如、大きな音と共に建物が激しく揺れた。
武錆の仕業ではなく、ハワードたちが逃げた方向からだ。
あのボケ老人のことは激しく気になるが、今大切なのはチェルシーちゃんの奪還とゼラの復讐。
俺は遠くから響くクソジジイの雄叫びが気になりつつも、真反対の方向へ走り出した。
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