第7話 嬉し楽しい初銃選び?
有害駆除の見学から一か月。
無事に初心者講習も終わり、俺と恵夢は無事に合格した。
次のステップとして教習射撃だ。
そして狩猟免許の方も前期試験に申し込みをした。
実際の試験は七月に実施され、その直前の日曜日に予備講習が実施される。
少しずつだが、自分が銃取得の道を進んでいる実感がある。
「早く銃を手にしたい」
俺は毎日それを考えるようになっていた。
俺が風呂から上がってリビングを通りかかると、麗明と雪美が恵夢を挟んでノートパソコンを見ていた。
「何を見てるんだ?」
俺がそう声をかけると、恵夢が顔を上げた。
「銃選び。範斗くんも一緒に見ようよ」
と手招きする。
既に三人がモニターの前に揃っているので、俺は三人の後ろに座って眺める事にした。
「やっぱり北海道でエゾシカ猟って言うと、ハーフライフル一択だよね~」
楽しそうに恵夢が言う。
「ハーフライフルって?」
俺が尋ねると、麗明が半分呆れたような顔で見る。
「範斗、狩り喰い部に入って一か月経つのに、まだハーフライフルも知らないのか?」
「だって俺は今まで、初心者講習の勉強やら、狩猟免許の申し込みなんかで忙しかったからさ。銃について詳しく知る時間がなかったんだよ」
「それもそうか」
麗明は一人で納得したような顔をすると、説明を始めた。
「日本では最初に所持できる猟銃は散弾銃だけ。ライフルは猟銃を所持してから十年経たないと所持できない事は知っているよな?」
「ああ」
「だけど散弾銃は本来、近距離で鳥を撃つ銃なんだ。散弾とは名前の通り、小さな弾が何十発も撃ち出される弾だからな。だからクマ・イノシシ・シカを狙うのには向いていない」
「でもそれらの大物を獲るためにスラッグ弾って呼ばれる一粒弾があるんだろ?」
「その通りだけどスラッグ弾で狙い通りに撃てるのは、せいぜい50メートル程度と言われている。よくても百メートルくらいだろうな。だけどその距離じゃ牧場やなんかじゃまずシカに逃げられちまう」
それはそうかもしれない。
この前の有害駆除に見学に行った時は、三百メートルくらいの距離があったがシカは警戒していた。
50メートルはもちろん、百メートル以内に近づく事も至難の業だろう。
「そこで一粒弾専用でライフリングを刻んだ散弾銃がアメリカで発売されたんだ」
「ライフリングを刻んだ散弾銃? それってライフルと何が違うんだ?」
「まず射程距離が全然違う。ライフルの弾は3キロくらい飛んで行くが、スラッグ弾は700mくらいだ。他にも弾の初速やエネルギー、使用される火薬なんか違いは色々あるけどな」
「なるほどな。根本的な性能が違うのか」
「その通り。例えばアタシの持っているサベージ212という銃は、製造元のサベージ社のカタログにも『Firearm Type:Shotgun』となっている」
「つまりライフリングがあっても性能がショットガンだから、俺たち初心者でも所持できるって訳だな」
「それがちょっと違うんだ。日本では『ライフリングがあるならライフルだろ』って解釈になっている。そこでどんな人たちがどんな話し合いをしたのか知らないが『銃身の内でライフリングが半分以下なら散弾銃として認めよう』って話になったんだ。警察としても妥協したんだろうな」
「でもアメリカでは元々銃身一杯にライフリングが刻まれていたんだろ? それを半分に削り落としたら、性能に悪影響が出るんじゃないのか?」
「そうかもしれないけど、警察が認めてくれないんじゃ仕方がないだろ。それにアタシはフルライフリングのサベージを撃った事がないから、どの程度性能に影響が出ているのか分からない」
それまで黙って聞いていた恵夢が、後ろに両手をついて天を仰ぐように仰け反る。
「まったく日本の銃アレルギーもここまで来ると笑い話よね。ライフリングを半分削ったらライフルじゃないとか、一休さんのとんち話かって思っちゃう。しかもアメリカの二倍の値段を出して、わざわざ性能を落とす改造をして……アメリカの友達に言ったら『何のギャグか』って笑われそうだわ」
帰国子女の恵夢には、このあたりの日本的な擦り合わせと言うか、腹芸みたいな事が理解できないのかもしれない。
「とりあえず、いま俺たちが所持許可を取れそうで、狩猟に使えそうなのはハーフライフルって事なんだよな?」
恵夢がヒートアップする前に、俺は話の結論を口にした。
「そうね。それで私が買おうと思っているのはコレなんだ」
恵夢がマウスを操作して銃砲店のページを開く。
そこには「サベージM220 カモ柄 スコープ付き 36万円」となっている。
「え、銃ってこんなにするの?」
思わず悲鳴に近いような声が出る。
「そりゃそうでしょ。だって日本じゃ数だって出ないし」と恵夢。
「新銃でスコープ付きならこの値段は普通だよ」と麗明。
「でもさ、ガンロッカーだって三万円以上するだろ。装弾ロッカーだって二万円くらいするし。さらに銃とスコープでそんなにするんじゃ……」
言葉にはしなかったが「俺の予算範囲を完全に越えている」という事だった。
「まぁその点はバイトでもして頑張るしかないよな。ローンも使えるし」
麗明のその言葉に俺はガックリ来る。
狩猟が金がかかる事は覚悟していたが、こんなにかかるとは。
所持するまでの講習や手続きでも、それなりのお金がかかっているのに。
「もっと安い銃はないのか?」
麗明が難しい顔をした。
「現在の日本でハーフライフルを新銃で買うとすると、サベージ212かサベージM220の二択しかないかな」
「その二丁は何が違うんだ?」
「口径の大きさが違う。サベージ212は12ゲージ、約18.5ミリだ。220の方は少し口径が小さくて20ゲージ、約15,6ミリって所だな」
「口径が大きい方が威力があるって事だよな」
「そうだ。でもその分、反動も大きい」
そこで恵夢が付け加える。
「12ゲージの方が威力が大きいって言っても、百メートル以内なら獲物は倒せるんだから大差ないよ。それより反動が小さい方がいいと思う。一発目を外しても、すぐに二発目を撃てるって事だからね」
それに麗明が反論する。
「12ゲージだって即座に撃てない訳じゃない。それに相手がヒグマなら20ゲージだと心もとない。少しでも威力がある方がいい」
「ヒグマ相手なら速射性じゃない? 12ゲージの反動の大きさじゃ狙い直すのに時間が掛かり過ぎるよ。その間にヒグマにやられそう」
「それを言い出したら自動銃がいいって話になる。ボルトアクションを選ぶ意味がない。そもそも20番のサボット弾は高いだろ。射撃の練習にも響きそうだ」
「まあまあ、二人とも落ち着いて」
言い争いになりそうな二人を俺は止めた。
「麗明が使っているのが12ゲージ、恵夢が買おうと思っているのが20ゲージって言う事なんだよな。それでどちらがいいかは、その人によるのか?」
二人ともちょっと熱くなりすぎた事を反省したのか。
顔を赤らめながら口を開いた。
「まぁ、そんな感じだな。12番と20番どっちがいいかなんて、世界中のシューターが議論しているけど結論なんか無いんだ」
「麗明ちゃんが言った通り、12番の方が一般的な事は確かだよ。あとは考え方というか好みかな」
「ところでさっき麗明が言っていたサボット弾っていうのは何のこと?」
「サボット弾って言うのはハーフライフル専用のスラッグ弾の事だよ。弾丸がワッズというプラスチック製のケースで覆われているんだ。発射される時はワッズがライフリングに食い込んで回転する。銃口から弾が出ると空気抵抗でワッズが外れるのは普通の散弾と同じだ」
「サボット弾は普通のスラッグ弾よりさらに値段が高いのが難点なのよね。狩猟に使う銅弾だと一発で千円前後の時もあるから」
ひぇっ、弾もそんなに高いのかよ。
じゃあ外れたら千円札を山に落としたのと同じって事か?
「まぁ猟の時はそんなにバカスカ撃ったりしないからな。弾代はそこまで気にしなくていいと思うが」
そう言った麗明に俺は尋ねた。
「いや、万年金欠病の俺としては気になるよ。せめてもっと安い銃はないのか?」
「銃だけなら中古で十万円以下とかもあるけどな。でもスコープがな……」
「スコープってそんなに高いのか?」
「ライフル銃を持っている人は『スコープは銃本体より高いものを買え』って言っている」
「でも前にネットで調べたら、一万円くらいであったぞ」
「それはサバゲなんかのエアガン用だろ。エアライフルならともかく、反動の強いハーフライフルじゃ使えないよ。すぐに壊れる」
麗明と恵夢の話を聞いていて、俺は愕然とした。
所持許可を得るだの狩猟免許を取るだの以前に、俺の予算では狩猟なんて始められないんじゃないか?
やっぱり狩猟はお貴族様の趣味なんだろうか?
※補足情報
この部分は令和5年に書いています。
そして令和6年の銃刀法改正により、ハーフライフルも「ライフルである」という扱いになりました。
施行は令和7年からなので、それ以降に初めて銃を所持する人はハーフライフルは所持できない事になります。
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